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139.回帰 ページ45




当時の記憶を参照し、どれがおいしいかを予想しては、片っ端からカゴに入れていく。現在の所持金は、数日前にお小遣いが入ったばかりだからそこそこある。遊木くん1人分ならたとえ多めに買ったとて、まだまだ心配無用だ。おやつなら、校内アルバイトのお給料で買えるし。


トートバッグを持ってきておいてよかった。

栄養剤を大量に詰めても、これなら外からは中身が見えない。店の外へ出てしまえばもう、私は栄養剤を買い占める謎の女から、ただの買い物客になる。



また自転車を走らせる。
今度はなぜか信号運が良くて、半ば信号無視の必要もなかった。


正門を抜ける。
こっちは少し人が少なめだ。

自転車を停める。
前かごの栄養剤が重くて、持ち上げるのに少し苦労してしまった。

人混みを駆け抜ける。
さっきよりさらに人が増えてきた。


その先に、見えたのは。





「――よ、A」


どこか吹っ切れた笑顔の、ま〜くんだった。


「『Trickstar』の衣装置き場って、変わってないか?」


私が大袈裟なくらい頷いたのは、言うまでもない。




−−−−




「副会長が、背中を押してくれたんだよな」


衣装置き場へと走りながら、ま〜くんはそう言った。


「お前が、転校生が、スバルが説得に来る度に、俺の中で『この選択なんか違うよな』みたいな思いが溜まっていってさ。で、さっき、最後のひと押しを貰っちゃったって訳」


体力のない私は走りながら喋れないから、頷くことで了解を示す。


「元々、なんか揺れてる所はまだあった。仲間を見捨ててまでアイドルとして成功したいのか?って」


悔やむような表情で、ま〜くんは走りながら床を睨む。


「『紅月』とも何回か一緒にレッスンしたし、副会長も、鬼龍先輩も、神崎も、冷たい訳じゃない。むしろ全員が全員、親切にしてくれた。でも……それでも、俺、なんだか『紅月』には馴染めなくてさ」


……そう、だったのか。

うん。『紅月』の人達は、優しい。
『S2』の後、神崎くんと目が合ってしまった時の気まずささえ、その後も優しく接してくれる彼らのお陰で、すぐ吹き飛んでしまったくらいだ。


「なんか俺を除いた3人が、家族みたいに見えたんだよな。すっごい仲良しでさ。で、さしずめ俺は居候役」


“居候役”なんて言い回しに吹き出しそうになりつつ、私は頷いて先を促す。

そうしたらま〜くんは、少し顔を上げて、笑ったんだ。



「それで気づいた……ううん、思い出した。
成功するならむしろ『ユニット』の仲間だけでも、信じるべきなんだ、って」

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Mashiro Lio(プロフ) - 迷えるJK〜dark side moon〜さん» 簡単な方(ただし難しい方と同レベル)に2年の終わり頃決めました。私の「やりたい事」と職業は無関係ですが、高収入は資金調達に必須ではあるので。描写は現実味に拘っているので、そのお言葉嬉しい限りです!今後も本作をよろしくお願い致します。長文失礼致しました。 (2021年3月23日 12時) (レス) id: 3124529ae6 (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - 迷えるJK〜dark side moon〜さん» そう言ってくださってとても嬉しいです!大学につきましては私の場合、当初やりたい事が無かったので「国家資格を取れる、かつ狙える中で最も高所得を得うる所」で決めました。2つ選択肢があり、ギリギリ難しい方を目指すか確実にもう一方で受かるか迷いましたが結局、 (2021年3月23日 12時) (レス) id: 3124529ae6 (このIDを非表示/違反報告)
迷えるJK〜dark side moon〜 - (追加)いつも小説の高校生の描写などが素晴らしく、きっとMashiroLio先生は賢い方なのだろうなぁ、と思って質問させていただいた次第です。お話にも関係のない話ですし、迷惑でしたら無視してくださって構いません。 (2021年3月23日 11時) (レス) id: ffd50faadb (このIDを非表示/違反報告)
迷えるJK〜dark side moon〜 - はじめまして!いつも小説楽しみにしてます^^私、MashiroLio先生の考え方に憧れていて、将来代替え出来ない人になりたく、次高3で進路(大学)選びに迷っているんですが、先生はどうやって決めましたか?もしよろしければ学びの方面など教えていただきたいです! (2021年3月23日 11時) (レス) id: ffd50faadb (このIDを非表示/違反報告)
苺バニラ(プロフ) - Mashiro Lioさん» 迷惑になりそうだと思いコメントを削除した瞬間に返答がきたので、驚いてしまいました……。ある意味ではタイミングがバッチリですね(笑)もし貴方様がお暇な時は、ぜひボードにいらしてください♪好きな時間に書き込んでくださいね! (2020年10月17日 16時) (レス) id: ead3d047d6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Mashiro Lio | 作者ホームページ:http  
作成日時:2020年2月29日 11時

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