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私と彩花はコスメを贈りあうことが多いが、彼らに頼むのは少し違う気がして、私は内心苦笑した。
では、母はどうだっただろう。
私も幼い頃は、人並みにあれがほしいこれがほしいと喚いたものだが、中学生になると母に無理をさせたくなくて、誕生日プレゼントを欲しがることは無くなっていた。
誕生日の夕食に私の好物とケーキが並ぶ。それが我が家のバースデーパーティーで、じゅうぶん嬉しかったのだ。
つまりここ数年、私は誰かに物をねだるということをしていないのである。
「……コスメとか？」
言うと、剣城は思いきり顔をしかめた。予想通りの反応に思わず笑ってしまう。
「……どうしてもか？」
「いいよ、無理しなくて。コスメコーナーはハードル高いだろうし」
剣城は本気で悩んでいるようだった。腕を組み、眉間に深い皺を刻んでいる。
その様子を見ながら、私はふと思いつくことがあった。
「女の子に変身すればいいんじゃない？」
天馬はたびたび女の子に変身しているし、先日遭遇した磯崎も女性に姿を変えていた。ということは、剣城もまた。
それに、女性の姿のほうがコスメコーナーに入りやすい。――一体どうして、あそこは未だにあんなにも男性が入りづらい仕様になっているのだろうか。
私の言葉を聞いた剣城は、一瞬目を見開いたあと
「嫌だ」
と口をへの字に曲げた。まるで、小さい子どもが拗ねるような仕草に呆気に取られる。
「『嫌だ』って……」
どこかで、聞き覚えがあった。
二人と初めて出会った日のことだ。男性と同居するのはいかがなものかという話の最中、女の子の姿になった天馬に「剣城も」と言われ、「嫌だ」と返していた。――「無理だ」ではなく、「嫌だ」である。不可能なのではなく、“したくない”と。
「な、何かあった……？」
おそるおそるたずねると、剣城は唸るような声で「昔、仕事で失敗した」と短く言った。ならば、磯崎のあれは相当上手くやっていたということか。
そういえば、天馬にしろ磯崎にしろ、女性に変身した際、元の姿の要素を残していた。
隣に座る剣城に目をやる。彼の顔立ちから予想するに、クールな女性になるのだろう。髪は――天馬はふわふわした髪がそのまま伸びたようであったし、磯崎は元の姿も髪が長かったから変化は小さい。反面、剣城はいつも髪の毛を逆立ているので、あまり想像できなかった。
「……見すぎだ」
視線に耐えかねた剣城が、こちらを睨んだ。
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作者名：はるま | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年10月13日 0時
