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「――先輩、A先輩」
「あっ、は、はい!」
昼休み。私は剣城の作ってくれたお弁当を食べながら、携帯でいろいろな通販サイトを巡っていた。誕生日に欲しいものは、まだ見つからない。
そうして携帯の画面を睨んでいると、突然声をかけられた。慌てて振り返ると、そこには駒井さんが立っていた。彼は私が勢いよく振り返ったことに驚いたのか、目を見開いていたが、すぐにいつも通りの無表情に戻った。
「ごめん、何だった?」
「休憩のあと、お時間ありますか」
「あるよ」
「昨日の資料、修正したので確認お願いしたいんですが」
「わかった。あとで行くね」
「ありがとうございます」
ぺこ、と軽く頭を下げて、駒井さんはその場を去っていった。やはり顔色が悪く、前髪の影が落ちる目元には疲れが見える。それでも、仕事は着々と進めていくのだから大したものだ。
彼の仕上げた資料は、完璧だった。説明も的確でわかりやすく、それでいて中身も充実している。
「良い感じだね。もしかして、もうスライドのほうも進めてる?」
「はい」
「早いね……」
彼の返事を聞いて、私は少し焦った。
プレゼンの内容はグループメンバーで分担することになっており、自分が担当する箇所の資料とスライドは、各自で作成しなければならない。
彼のそれに比べ、私の進み具合は大幅に遅れていた。プレゼンには間に合うように進めているものの、ここまで仕事ができる後輩が近くにいると、どうしても焦燥感に駆られてしまう。
「当日まで時間があれば、発表の練習できるしね。じゃあ、また何かあれば――」
そう言いながら駒井さんのほうを見る。モニターを見つめるその表情がどんよりと曇っているように感じた。
え、と声が出そうになるのを咄嗟に押さえる。何か気に障っただろうかと冷や汗をかいていると、駒井さんがハッとして私のほうを見た。
「ありがとうございました」
「あ、うん……」
このまま自分のデスクに戻っていいものか迷う。今まで業務上の会話しかしてこなかったので、心配していることを伝えるのも妙な気がした。かと言って、「困ったことがあれば呼んでね」もおかしなセリフだ。私より彼のほうがずっと仕事ができる。
結局、駒井さんに何か声をかけることはないまま、その日の仕事は終わった。
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作者名:はるま | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm
作成日時:2022年10月13日 0時