検索窓
今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:4,983 hit

5-6 ページ23


 しばらく、天馬は家に来なかった。
 手の傷は自分ではうまく処置できなかったため、病院に行った。怪我した場所が場所なので、ちょっと物を掴むだけで痛みが走ってしまう。

 たとえば、生ゴミ用の袋とか。

 半分以上残っていたケーキも、剣城の作り置きも、腐らせてしまい、結局捨てるしかなかった。袋の中へ落ちていく、ぼと、という音が虚しい。

「剣城と会ってほしいんだ」

 驚いて顔を上げると、目の前に天馬が立っていた。
 剣城ならこの前少し会った、と言おうとしたが、それより前に天馬が私の肩を掴む。

「お願い、A」

 困惑する私をよそに、天馬は私の返答を待った。いつもと違う、どこか焦っている様子の彼を見て、さらに困惑が深まる。

「ちょっと待ってよ。急にどうしたの?」

 天馬が俯く。その肩が頼りなさげに下がっていく。

「俺は……俺たちは、もう――」
「天馬」

 重みのある声が、天馬のかき消した。
 ハッとして声のしたほうを見ると、見知らぬ青年が部屋の中央に立っていた。整った顔立ちに、白いコートと上品な出で立ちだ。青年は、貫くような視線を天馬に向けていた。

「――神童さん」

 天馬が呟く。神童さんと呼ばれた青年は、腕を組んで呆れたような表情を浮かべた。

「いつまで人間界にいるつもりだ」

 神童は明らかに天馬を責めていた。そして、その口ぶりと雰囲気から、彼も天使であることが察せられた。
 天馬は申し訳なさそうに眉を下げ、「すみません」とらしくない小さな声で言う。

「とっくにノルマは達成しているだろう。報告に戻れ」
「わかってます。けど、あと少しだけ……」
「それを言うのは二度目だぞ」

 天馬が言葉に詰まる。何だか可哀想になってきたが、それよりも気になることがあった。

「ノルマは達成してる……って」

 思わず呟くと、二人の視線が私に向けられた。

「天馬、どういうこと? いつ達成してたの?」
「……ちょうど三週間前だ」

 黙っている天馬の代わりに、神童が答える。
 カレンダーを見る。三週間前というと、私の誕生日の前日だ。天馬に視線を向けたが、彼は俯いていた。

「天馬と話をさせて」

 神童の目をじっと見続けると、彼は呆れた様子で口を開いた。

「明日の朝もう一度来る。必ず天馬を引き渡してくれ」

 私は天馬と二人、その場に残された。

5-7→←5-5



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (27 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
17人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:はるま | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm  
作成日時:2022年10月13日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。