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窓の向こうは、墨で塗りつぶしたように真っ暗だった。ずっと見ていると不安になりそうで、カーテンをさっと閉め、天馬に向き直る。
「あの人の言ってたことは、本当なんだね？」
天馬が頷く。
走ってもいないのに、呼吸が浅くなっていった。
「……ねえ、もしかして、剣城も？」
天馬の前で剣城の名前を呼ぶのは久々で、どこか落ち着かない気持ちになる。
天馬は目を閉じ、観念したように頷いた。消え入りそうな声で「俺よりずっと早くに」と呟く。
今になって、剣城の言っていたことが妙に腑に落ちた。
――……できるだけ、早く帰ってきてくれ。
あれは、天馬がバースデーパーティーを楽しみにしているということだけではなかったのだ。きっと、パーティーが終われば、二人はすぐに戻らなければならなかった。だからこそ、残されたわずかな時間を一緒に過ごしてくれと、剣城はそう言いたかったのだ。
それなのに、あんなふうな別れ方をしてしまった。
罪悪感に耐えかねて、「剣城は戻ってるの？」と早口にたずねた。
「戻ってないと思う」
「どうして？ 報告しなくちゃいけないんでしょ？」
天馬は「うん」と頷いたものの、その表情はどこか落ち着かない。前回「悪魔の匂いがする」と言ったときよりも、顔色が悪いように見える。私は所在なさげに立ち尽くしている天馬を一旦ソファに座らせた。
「戻ったら、どうなるか……」
「どうなるか、わからないってこと？」
私の問いかけに、天馬は肯定も否定もしなかった。
「天使は生きている人間に正体を明かしたり、こうやって一緒に住んだりすることはしないんだ。悪魔も大体そう。天使と悪魔が実在してるってみんなに知られたら、人間界が混乱するから」
天馬は、膝の上に置いていた両手をぎゅっと握った。
まるで、家出してきた中学生のようだった。帰らなければいけないとわかっているけれど、帰ったら怒られることもわかっているから、帰ることができない。
「……神様に、怒られる？」
「怒られて済むなら、それでいいよ」
「え？」
天馬は弱々しい声で、言った。
「Aから、俺たち天使や悪魔に関する記憶を消すことになる」
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作者名：はるま | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年10月13日 0時
