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episode4 メランコリー・バースデー
「お祝いされる側の人は何もしなくていいから」と、
そう考えながら、今日何度目かのため息をついた。
「Aさん、お疲れですか?」
それが聞こえてしまったらしく、隣のデスクの雛森さんが心配そうな顔でこちらを見ていた。「そういうわけじゃないんですが」と言いつつ、疲れているのもあながち間違っていないことに気が重くなる。
「プレゼンが……」
「ああ、緊張しますよね」
ちょうど私の誕生日に、いくつかのグループに分かれて発表する、それなりの規模の社内プレゼンを控えているのだ。
資料を作るだけならまだしも、人前に立つことには慣れていない。想像するだけで気が重くなる。しかも、今回はチーフとも雛森さんともグループが離れてしまったのが心細い。
そして、もう一つ気がかりなのは――
「Aさん、資料の確認お願いします」
「あっ、はい」
彼は今年入ってきたばかりの後輩だ。一応、私が彼の教育係としてついているのだが、私は必要ないのではと思うほど仕事ができる。真面目な仕事ぶりで、上司からの評価も高い。
それが、最近はどうも様子がおかしい。
勤務中、心ここにあらずと言ったところで、ぼうっとしていたり、ため息をついていたりすることが多い。
それに加え、やつれた、と言えばいいのだろうか。痩せたのではなく―そもそも、彼は元から細身である――げっそりしているし、目の下にくっきりと隈をこしらえている。
最初は仕事がつらいのかと思ったが、そういうわけでもないらしい。仕事は今まで通りこなしているし、締切にも間に合っている。
なら、彼の様子がおかしい原因は――。
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作者名:はるま | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm
作成日時:2022年10月13日 0時