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あれから剣城は姿を消し、私と彩花は家に戻った。
ご飯を食べて少しお酒を飲むと、彩花はまた泣いてしまった。満腹感と睡魔と悲しみがないまぜになってソファに沈み込む彩花は、そのまま放置したらソファと一体化してしまいそうだった。
「何がいけなかったんだろう……」
「光橋さんは何て言ってたの?」
「他に好きな人がいるからって……」
「え!? それなのに彩花と二人ででかけてたの!?」
それは少し、ルール違反というものではないだろうか。向こうが付き合っているわけではないのだから浮気でも何でも無いけれど、想い人がいるのに他の人とデートするのは、誠実ではない。
しかし、光橋さんがそういったことをするのは意外だった。彼と会ったことはないが、彩花の話を聞いていても、社員みんなで撮った写真を見せられたときも、とても真面目で、恋愛よりも仕事に精を出している人物に思えたからだ。
「人は見かけによらないね」
「きっと、向こうは最初から、そんなつもりじゃなかったんだよね。私、調子に乗ってたんだなぁ……」
「そんなことないよ。向こうも思わせぶりだって」
「あー、どうしよう……これからも、職場で顔、合わせるのに……」
「彩花?」
ソファに顔を埋めてうとうとし始めた彩花を何とかベッドまで連れていき、毛布をかけた。翌日が休みの夜はもう少し起きているところだが、今日は準備のために早起きしていたし、限界だったのだろう。
後片付けをしようとリビングに戻ると、剣城がズボンのポケットに手を突っ込んだまま、影のように立っていた。部屋の隅の暗がりに立っていて、その表情は伺えない。
「剣城」
声量を抑えて呼ぶと、剣城が顔だけでこちらを向いた。目だけが薄ら光っている。
「聞きたいことがあるんだけど――」
「わかってる」
私は机の上を簡単に片付け、冷蔵庫から酔い覚ましのミネラルウォーターを持ってきた。
私がソファに座っても剣城は立ったままだったので、「座らないの?」と声をかけると、彼は重い足取りで近付いてきた。
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作者名:春間 | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm
作成日時:2022年9月11日 15時