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 彩花がうちに泊まり始めて一週間ほどたったある日、「今日は職場の人たちと食べて帰るね」と連絡があった。

 もともと、私が一人になるのを避けたいという名目で彼女をうちに呼んでいたので、今まで私を一人にさせまいと彼女が気を遣ってくれていることは察していた。

 だから、彩花が遅くなるのはこれが初めてのことだった。

 新しい職場に馴染むためかもしれないし、光橋さんがいるのかもしれない。そう考えながら、「了解。楽しんできてね」と返信し、携帯を机に置く。
 ソファに寝転んだ瞬間に、剣城に「彩花を一人にするな」と言われたことを思い出し、慌てて「帰りは駅まで迎えに行くから連絡して」と送った。ペンギンが手を挙げて「はーい」と言っているスタンプがすぐに返ってくる。

 悪魔だって、目立つことは避けたいはずだ。それに彩花のカバンには、彼女がお風呂に入っているあいだにこっそり十字架を仕込んである。天馬と剣城だって見張ってくれている。

 そわそわとして落ち着かないまま、冷蔵庫にあった野菜と豚肉を適当に炒め、今夜の晩ご飯にした。が、あまり味がしない。しっかり味付けをしたのに。

 私は不安をかき消すため、タブレットを手に取り、動画配信サービスのアプリを開いた。


 彩花から連絡があったのは、 ちょうど映画を一本見終わった頃だった。満腹感と映画の余韻でついうとうとしていた私は、「あと二十分ぐらいで最寄り駅に着くよ」というメッセージを受け取った途端、慌ててソファから立ち上がろうとして、足を机に引っ掛けた。

「お待たせ! 迎えありがとう」
「彩花、酔ってる?」
「ちょっとだけね」

 改札を出てきた彩花はいつもに増してニコニコしていた。楽しい晩餐会だったらしい。夜道はしんとして、私と彩花の声がはっきり聞こえた。

「――それでね、その先輩が相談に乗ってくれたの」
「相談って、光橋さんのこと?」
「なんでわかったの?」
「そりゃあ、わかるよ」

 酔っている彩花は、職場のことや今日の食事のことをよく話した。彼女と年の近い先輩に沖内(おきうち)さんという女性がいて、彩花が光橋さんに想いを寄せていることに気付き、いろいろと助けてくれたらしい。おかげで、今日は光橋さんと少し話せたと、彩花は照れ笑いを浮かべた。

 私は彼女が無事であったことに、こっそり胸を撫で下ろした。

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作者名:春間 | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm  
作成日時:2022年9月11日 15時

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