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その後、特に変わったことはなく、変化があると言えば、彩花と光橋さんの仲だった。沖内さんのアシストがかなり効いているらしく、順調に――いわゆるデートを重ねていた。
「それじゃ、行ってきます！」
「行ってらっしゃい」
今日も彩花は光橋さんと二人でご飯である。
この頃には私が家に一人になる時間も増え、天馬や剣城が時折近況報告しに帰ってきていた。だが、目立った情報はこれといって無かった。
そう、平穏な日常が続いたのだ。
日が落ち、そろそろ夜と呼んでいい時間になった頃、彩花から着信があった。普段はメッセージでやりとりをするため、電話がかかってくることは少ない。少し不思議に思いながら、「もしもし、どしたの？」と電話に出た。
「A……」
電話越しの声は掠れていた。
尋常ではないと感じ、勢いよくソファから立ち上がる。
「彩花？ どうしたの？」
「私……なんか、勘違いしてたみたいで……」
彩花の声がだんだんと震えていく。不自然に言葉が途切れ、言葉に詰まっている。
「光橋さんにね、言ったの……でも……」
ああ、とため息がもれそうになって、彩花に聞かせるわけにはいかないと咄嗟に下唇を噛んだ。
彩花は勇気を振り絞って、自分の気持ちを光橋さんに伝えたのだ。けれど、期待していた返事は聞けなかった。
じくじくと胸が痛む。当事者でない私でさえこれなのだから、彩花はもっとつらいだろう。
「彩花、迎えに行くよ。今どこ？」
「うん……えっと――え？」
彩花の声が遠ざかる。そして、彩花の他にもう一人、女性の声が聞こえてきた。彩花はその人と少し話したあと、電話口に戻ってきた。
「あの、今たまたま沖内さんと会って……」
「沖内さんが？」
沖内さんと言うと、彩花が頼りにしていた先輩だ。彼女が一人ぼっちではないことには安心したが、よくこんな偶然があるものだ。
――偶然？
「家の近くまで送ってくださるそうだから――」
「待って」
ざわ、と鳥肌が立つ。自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえて落ち着かない。
「私が迎えに行くから、そこにいて」
「A？ どうしたの？」
「いいから――電話切らないで」
家を出ようとすると、異変に気付いたのか玄関に剣城が立っていた。
彼が無言で差し出した手を取り、私たちは彩花のもとへ向かった。
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年9月11日 15時
