「コーヒー。あとそれから手前。」【中原中也】

１５．待つようです。 ページ17

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一週間。素敵なおじ様も可愛いらしい女の子も＿＿黒い帽子が似合う想い人も。常連さんは誰も来なかった。


時計の針は既に午後六時四十五分を指している。こんなに寂しいと感じるのはお客様が帰ってしまったからではない。きっと彼がいないから。


店に流れる音楽は想い人を待つ私を慰めてくれているようで。


営業時間はとっくに過ぎている上に、彼が来てくれるという保証など何処にもない。ただ此処にいれば彼に会える、そんな気がして。だから一番俺のカウンター席に座って、彼を待ち続けるのだ。


カチコチ、カチコチ。


無情にも時は流れていく。彼は来ない。



ただでさえ暗い外が深淵のように深く濃い闇に支配されていく様子をぼんやりと眺める。時計は私に「早く帰れ」と急かしているよう。



ねぇ中也さん。貴方に会いたいです。





＊





だんだんと目の前のモヤが晴れていく。その時初めて、ああ眠ってしまったのか、と気が付いた。

まだ鉛のように重たい瞼を無理矢理持ち上げて意識を覚醒させる。
時計の針はもうすぐ九時に差し掛かろうとしていた。


辺りを軽く見回す。しかしと言うかやはりと言うか。彼はいなかったけれど。


何故会えると思ったのか。大体彼がこんな遅くにこの店を、私を訪ねる必要は無いではないか。営業もしていないのに。


私は一体何を勘違いしていたんだろう。



ああダメだ。悲しい。涙が一つ零れた。私は彼のことになるととことん涙脆くなるらしい。


今日はもう帰ろう。そして、この気持ちには蓋をしてしまおう。こんなに辛くて苦しいのならいっそ＿＿





＿＿カランコロン。






ああ神様。





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