「コーヒー。あとそれから手前。」【中原中也】

１４．自覚するようです。 ページ16

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コトリ。いつものようにコーヒーをお出しする。いつかのカレーをご馳走した時とは違って手は震えていない。良かった。


現在午後四時半。まだ閉店まで時間はあるというのにお客様は彼を除いて誰もいない。



中也さんと、二人きり。



心臓がまた暴れ出して。恥ずかしさと照れ臭さとそれから＿＿嬉しさと。

そんな感情がぐるぐる私の頭を支配していく。ダメだ、沸騰しそう。

きっと私の頰はトマトのように真っ赤だ。否、絶対に。


私がそんな状態でいると、彼はコーヒーを一口飲んでから「悪かったな」と一言。困ったような、いつもとは違う彼の申し訳なさそうな弱々しい笑みと共に。

それから、「暫く来られない」「大切な仕事がある」と。彼はそう言った。



寂しそうな、悲しそうな笑みが印象的だった。



胸がきゅう、と苦しみを訴える。違うの。私は貴方に笑っていてほしいけれど、そんな笑みじゃない。もっと太陽のように笑う貴方が見たい。

ああ苦しい。私は貴方にそんな顔をしてほしくない。


ぐるぐる。彼を想う気持ちが涙となって零れ出す。


いつも見せてくれる笑顔とか。優しいところとか。ちょっと不器用なところとか。そんな素敵なところが沢山あって。私は貴方がいるだけで毎日頑張れた。



＿＿ああ、これではまるで。まるで。





「？！お、おい。まさかあの糞太宰になんかされたんじゃ……」



いきなり泣き出した私に中也さんも驚いたらしい。ぎょっとして、それから私の心配をしてくれるあたりが彼は本当に優しいと思う。


首を横に振る。「違う」と言いたいけれどダメだった。涙が止まらない。どんなに頑張っても汚い嗚咽しか出なかった。


辛い。苦しい。寂しい。頭を撫でてほしい。笑っていてほしい。




＿＿彼が好き。





ぽたり。カウンターにシミを作っていく。





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