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別にそうしなければならない理由なんてなかったが、何ともなしに円堂と子どもたちのサッカーを見ていた。
すると、バンダナをした男の子が円堂に向かって蹴ったボールが逸れ、如何にも柄の悪い二人組に当たりそうになる。
「誰だ、こいつを蹴ったのは!」
「……」
背の高い方が怒鳴り声をあげ、思わず縮こまった。こちとら父も豪炎寺も大声なんて出さないから、怒鳴り声に慣れていないというのに。
「大丈夫ですか!?すみませんでした……」
円堂は不良の方に駆け寄り頭を下げて謝るが、このような輩がそんなことで許すはずがない。円堂は腹を蹴られてしまう。
どうして今日に限って慣れないことばかり起こるのだ。ここは修羅の国か。暴力を見ていられず目を逸らすと、繋いでいた手を強く握られた。隣にいる豪炎寺をそっと見上げると、険しい顔で不良を見ていた。
「あれぇ、雷門中じゃねーの。部員の全然いねえ、弱小サッカー部ですよ」
「くっだらねえ。ガキ相手に玉蹴りか?」
不良の下品な笑い声が響く。如何にもサッカーを馬鹿にしている雰囲気に、とてつもない不快感を持った。
こんな気持ちになったのは生まれて初めてかもしれない。
「安井さん、お手本見せてやっちゃあどうです?」
「いいねェ……やってやろうじゃねえの」
背の高い方がサッカーボールに唾を吐く。
自身の不快感も忘れ、やばい、とAは豪炎寺の方を向いた。ずっと険しい表情だった豪炎寺が、不良を鋭く睨みつけていた。こうなってしまっては、止められない。今回ばかりは止めようとも思わないが。
不良の蹴ったボールがあらぬ方向に飛び、稲妻KFCの女の子に向かう。その時、豪炎寺は動いた。
彼はボールを蹴り返し、不良の顔面にぶち当たる。相変わらずのキック力だ。一年ほどブランクがあるにも関わらず、テクニックも衰えていない。正確に(?)顔面にぶち当てたのだから。
「安井さん! ……てめぇ!」
背の低い方が豪炎寺を見るが、彼に睨み返されて呆気なく怯んだ。覚えてろ、と捨て台詞を吐いた不良はボールをぶち当てられた方を抱えて逃げていった。
「久しぶりに見たな、修也のサッカー」
今のをサッカーと呼んでいいのかはわからないけれど。
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いつの間にやらランキング入りしていてびっくりです
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作者名:おひめ | 作成日時:2022年7月14日 17時