42. ページ43
.
疲れた。疲れすぎて立ったまま眠れそうな気がする。
案の定そう上手くは行かない染岡の必殺技作りは、予想以上にAの体力を消耗していた。
｢A、おかえり……どうした？｣
｢ねむい｣
｢目を閉じて歩くな、転ぶぞ｣
｢ねむい｣
｢聞いてないな｣
帰ってきたAを出迎えた豪炎寺は、ふらふら歩く彼女を抱き留める。ここまで体力の管理が出来ていないのは珍しいと思った。Aは自分で、あまり無理をしすぎるともたない身体だと理解していたはずだ。
寝ぼけ眼の彼女を何とか寝室のベッドまで誘導し、疲れ切っている訳を聞き出すことにした。
｢染岡の必殺技作り……か｣
｢ん……あとすうじつで、なんとかする｣
正式にサッカー部に入部したことで、これまで世話を焼いていた円堂だけでなく、その他の部員も自らの庇護対象に入れたのだろう。どれだけ大切なものを増やす気なのだ、このお人好しは。他人のことばかりに気を回しすぎだ、自分のことも考えろと何度も口を酸っぱくして言ったはずなのに、豪炎寺の注意は見事に右から左へ聞き流されている。
それでも、言い出しっぺは自分なのだから投げ出したりしない、と寝惚けながら言い切るAの言葉は、彼女らしい信念を確かに宿していた。真っ直ぐで誠実なのはいいことだ。これで無茶さえしなければ。
彼女の身体が心配なのは勿論だが、それと同じくらい気に食わない、自分でも驚く程に。このままでは折角ひとつ屋根の下に住んでいるのに、一緒に過ごす時間は減る一方だ。その貴重な時間を睡眠に全振りされては適わない。
｢一緒にいてもいなくても心を乱してくるな、お前は｣
一緒にいるとAは基本ぼんやりしているので心配は尽きないし、一緒にいなかったら目の届かない場所で無茶をする。毎分毎秒、彼女の行動は心臓に悪い。この調子では一生能天気で危なっかしい彼女の世話をしながら生きていくことになりそうだと、冗談めかして考えた。……想像してみると、悪くないな。
そうやって甘やかすからAのマイペースがどんどん暴走して、もはや手が付けられないところまで来ていることに彼は気づかない。
目を覚ましたら幼なじみを蔑ろにするとは何事だと抗議してやると意気込み、風邪を引くといけないので布団を掛けてやった。
彼女は昔から豪炎寺の注意は聞き流すものの、彼の幼なじみとしてのお願いは一度たりとも拒否したことがないのだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
