8音 従弟 ページ10
ガチャ、と貰った鍵で玄関のドアを開ける。
リビングのドアを開けてひょっこり顔を覗かせたのは、Aと同じ紫の髪色をして、前髪で目の見えない背の高い男だった。
「お、来たね。おかえりー」
ーただいま、一哉ー
男の名は原一哉。霧崎第一高校のバスケ部に所属している。
「夕飯なに食ってきたの?」
ーパスタだよ。美味しかった。そっちは?ー
「うちは肉じゃが」
美味かったなーと原は呟く。
「(肉じゃが……そういえば幸ちゃんの好物だったな)」
ぼんやりAが考えていると、原はAを防音加工された部屋へ引っ張っていった。
その部屋はわりと広めで、エレキベース2本にエレキギター3本が、エレキベースとギター合計5本まで収納できるスタンドに置かれ端にひとつ、そしてアコースティックギターが2本ハードケースに入れられ壁にもたれかかっている。
一番目を引くのは、グランドピアノ。と、壁際の角にあるドラムセット。
原の父親はプロの作曲家だ。
この部屋は幼い頃の原には絶好の遊び場で、一番好きになったドラムを、小2から習い始めた。
バスケの合間に練習し、演奏動画を投稿したりその動画サイトで知り合った演奏者と共に、たまにだがライブも行っている。
ー一哉、演奏してくれるの?ー
「んにゃ、Aが演奏して」
え、と心で呟いた。
Aはしばらく、演奏をしていない。
「このテレキャス、うちで預かったままだから、弾いてあげなよ」
でも、と打ったところで、その二文字を削除した。
ー下手でも笑わないでねー
そう打ったスマホを原に渡し、自身の物だったテレキャスターをシールドでアンプに繋ぎ、演奏し始めた。
Aが演奏したのは、初めて耳コピした、二つ名、深紅の女王として知られる天才SSW紅瑠の今ではデビュー前まで投稿してた動画サイトから消されてしまっている曲、
"深紅"だった。
「(この曲、歌詞も好きなのに)」
なんで、声、出ないの。
思わず、泣きそうになってしまった、とある夏の日だった。
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作者名:紫 | 作成日時:2019年3月6日 1時