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「ほんまとんだ災難やで。」
首にタオルを引っ掛けた平子が地下から上がってくるとリビングへ戻ってきた。
気だるげな猫背で歩く彼に、キッチンで皿を洗っている拳西が声をかける。
「遅かったな。落ちたのか?」
「あかんわ。お湯で洗っても油分が落ちひん。」
帰ったら速攻シャワー行きや。と言いながら毛先の水分をポンポンと抜いている彼の前髪は小さなヘアピンで留められていた。
大方ひよ里辺りの私物を勝手に拝借したのだろう。
自身の愛用するマグカップを戸棚から引っ張り出し冷蔵庫の麦茶を注ぐと骨張った手で口元へと運ぶ。
冷えた麦茶を流し込みながら窓の外へと目を向ければ既にとっぷりとした闇に覆われていた。
「ふぁ〜〜あ。もうええ時間やなァ。騒ぎ過ぎて眠たなってきたわァ。」
「お前もかよ。」
そう言って拳西が笑う。
は?と平子が聞き返せば拳西の視線がリビングのソファへと向いた。
「Aもだよ。さっきまで半目でトランプしてたんだが限界だったみたいだぜ。」
視線の先。そこにはソファの隅で膝を抱いて眠るAの姿があった。
肘置きにもたれかかって小さくなった彼女の肩にはひよ里のジャージがかけられている。
その足元では仮面の軍勢の面々が床にトランプを広げ騒いでいるが、どうやら起きそうな様子がない。
「あないな騒がしいトコでよう寝れるな・・。」
「これの為に今日も朝からこっち来てたんだとよ。慣れねえ場所で疲れてんだろ。」
「・・ほんま、お人好しすぎるやろ。」
そう言って口角を下げた平子を拳西はチラリと見て笑った。
「相変わらずだな、お前。」
「ハァ!?」
彼の言葉に、心外だ!とでも言いたげな平子が声を荒げる。
本当に相変わらずだ。
いつまで経ってもコイツは変わらず捻くれている。
とっととくっ付けば良いものを、いつまでもいつまでもチンタラとしている相変わらずなヤツだ。
「ほら、連れて帰ってやれよ。」
あんなとこで寝せとく訳にもいかねぇだろ。と拳西が皿を拭き上げながら言う。
やっぱり捻くれている彼は返事を返すことなくため息を吐いた。
「・・ったく、こないなとこで寝て。」
ガシガシと後頭部を掻きながらソファへと近寄り、小さくなって眠るAの目元にかかっていた銀髪を耳にかけてやる。
そのままジッと見つめたかと思うと透けるように白い頬にするりと指を滑らせ、小さく呟いた。
「おおきにな、A。」
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でんでん。(プロフ) - 毎日楽しみで大好きです!ご無理なさらず続きを楽しみにお待ちしております!(^^) (9月8日 2時) (レス) @page46 id: f6127465a5 (このIDを非表示/違反報告)
ひなみ - いいところで……!!! (5月17日 1時) (レス) @page46 id: 40e8d62194 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 続きが気になります•••! (2023年4月26日 20時) (レス) @page46 id: c3f7ca38c1 (このIDを非表示/違反報告)
いちか(プロフ) - 大好きです続き読みたいです (2023年4月22日 22時) (レス) @page46 id: e23563eff4 (このIDを非表示/違反報告)
マチリ - 最新話まで読ませていただきました。素敵な作品に出会えてとても感動しております。ご無理なさらずに続きを楽しみにお待ちしております。 (2023年2月25日 0時) (レス) id: 7c2370384d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おもち | 作成日時:2021年5月9日 2時