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56話 ページ11

「愛人の娘のくせにっ!!!私のママを殺したくせにっ!!!」


胸ぐらを掴まれたまま揺さぶられ、姉の顔をはっきりと見ることは出来なかったが、震える声で言ったから泣きそうなのではと思った。


そして、不思議と愛人の娘だお母さんを殺したと散々なことを言われているくせに大して傷つかない私がいた。


(……御幸のおかげだろうな。)


こんな状況で私の頭は冷静だった。姉の言葉も頭に入る。どうするべきかも判断できる……。



「……確かに私はあなたから見れば愛人の娘だ。それに私を産むためにお母さんが死んだことも事実……。それは紛れもないこと。……でも!!私はっ……私はあなたが羨ましい。」



今私がするべきことはただ一つ。……かつてこの家に居た時に抱いた気持ちをそのままぶつけることだった。


「あなたはお母さんの声を、体温を、人柄を知っている……。それに血の繋がった父親もいる……。二度と私が手に入れられないものを持ってるんだ……。」



無くなったものは戻ってこない……。それは私にとってはお父さんとお母さんなのだ。


そして、姉の力が緩んだ。力が抜けたかのように胸ぐらから手を離した。



「…確かにあんたは私より多くを失ったのかもしれない。けどっ!!私の苦痛がわかる?財閥を背負って立たなきゃ行けないプレッシャーも、自由に暮らすことすら出来ない苦しさも!!」


姉は悲しそうな顔で私を見ながら言った。そして、私はその言葉に言い返すことが出来なかった。


「……ほら、何も言えないんでしょう?何も背負う気がないのなら、黙って結婚しなさい。……御幸って男を守りたいんでしょう?」


「っ!?」


なぜ、御幸のことを……。そこまで調べられるのか……!?


…私は知っている。この家の汚さを…。手に入れたいものがあるのなら、どんな手を使っても手に入れると。


それが今の渋谷家との繋がりならば……。私を何がなんでも結婚させる。御幸への思いを忘れさせて……。二度とお母さんとお父さんのようなことが起きないように、私のような子が生まれないようにするために……。


そのためなら、御幸に手を出す…。



せっかく御幸とともに歩む道を選んでも、力には叶わない……。



必死に考えたところで、私には何も浮かんでこなかった。

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作者名:時雨 | 作成日時:2019年1月26日 0時

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