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「……先輩は、今日はお休みなのです」
「休暇ですか?」
「いえ、そうではなくて」
言ってもいいのでしょうかと悩みながら、彼は控えめに口を開く。言いづらいことなのだろうか。以前のように。
「無理に言わなくても……」
「大丈夫です。先輩は風邪をひいた様で」
風邪? そう聞き返して、私も彼も黙り込む。
その風邪菌の正体は確実に私だ。あの時に移してしまったのだろう。
看病に行くと申し出たのですが断られてしまって、と困った様に微笑む彼と鈴屋さんに対して罪悪感が募る。
「先輩は余り生活感がないと言いますか……何も食べてなかったらどうしようかと気が気でないのです」
確かに本人も「何も作れないので」と私に言っていた。放っておいたら体調が良くなるまで食事すらまともに取らないだろう。それは私も心配だ。
「あの、阿原さんが断られてしまったのなら私が行きます」
阿原さんが断られたのに私なんかが入れてもらえる気はしなかったけど、それでもこの間のお礼をするいい機会だと思った。私は食事を作れるし、なんなら掃除洗濯だってできる。いいのですか、と目を見開く彼に任せてくださいと精一杯の笑顔を見せる。彼はCCGの寮に住んでいるらしく、部屋の番号は阿原さんが教えてくれた。ありがとうございますと急ぎ気味に感謝して、上司の元へ走る。
お茶を置いたらすぐにでも鈴屋さんのところへ行かなきゃ。
「すみません、急用が出来たので本日は早退しても宜しいでしょうか! 今日の分の仕事は終わらせてあります」
「ああ、大丈夫だが……最近仕事詰めで大変そうだったし、早く帰れ」
「ありがとうございます……!」
お茶を渡して早口気味でそう告げると、上司は笑って許してくれた。優しい方で助かった。早々に荷物を纏めて、急いで局を出る。
今はただ、彼が大丈夫かどうか、それだけが私の足を急かしていた。
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彼の部屋へと向かうエレベーターの中。私の心臓は壊れそうな程に音を立てていた。まさか彼が私と同じ寮に住んでいるなんて知らなかった。私の部屋はもっと下だからすれ違うこともなかったから。
ちん、と聞きなれた耳に染み付いた音とともに扉が開く。踏み出すことが怖かった。断られてしまったらどうしよう。
それでも歩き続けていれば、部屋へとたどり着いてしまう。
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葵祭 - 鈴屋くんかっこいい( ・∇・)面白かったです!!(*^▽^)/★*☆♪ (2018年7月8日 8時) (レス) id: cfa0ae033f (このIDを非表示/違反報告)
大谷しおる(プロフ) - 芋蟲さん» ありがとうございます…!! (2018年3月20日 10時) (レス) id: d0b3d0a09b (このIDを非表示/違反報告)
芋蟲(プロフ) - すごく面白かったです!完結、おめでとうございます。 (2018年3月16日 20時) (レス) id: 19ce6d312e (このIDを非表示/違反報告)
大西(プロフ) - 青春ログアウトさん» コメントありがとうございます…!什造くん素敵ですよね;;文も褒めていただいて嬉しいです〜!更新頑張ります!! (2018年1月31日 0時) (レス) id: d0b3d0a09b (このIDを非表示/違反報告)
青春ログアウト(プロフ) - 鈴屋さん好きなのでこの作品見つけた時すごい嬉しかったです!話の方も素晴らしい文才で、読みやすくて尊敬です!更新頑張ってください(*^^*) 応援してます! (2018年1月30日 20時) (レス) id: 879efebfe2 (このIDを非表示/違反報告)
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