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カチ、と音がした方を見れば、門扉を覆うような形の屋根に、隠れるようにして小さな時計がついている。
まるで、校門みたい。
「施設内を見学したいという、中学生は君たちかい？」
突然耳に入ったテノールにそちらを見やると、スーツ姿の男性がこちらに向かって歩いてきていた。
なんだか、この土地に似つかわしくないな、なんて思ってしまうのは仕方がないと思う。
なぜってあまりにもきれいな格好だったんだ。
ベージュのスーツなんて、久しくみていない。
上杉がこの場にいたなら、高そうな時計のブランドや、ネクタイの銘柄をみて、瞳をキラキラ輝かせるだろうな。
「へー、あれ良い時計じゃんね」
…。
そうだ、若武の方が詳しかった。
絶対、頭の中で給料計算してるよ。アーヤがいたら、さぞムッとして無礼だって怒るんだろうな。
まあ、仕方がない。僕たちは男なんだもの。
女性は長きを見据えて計算する、いわばお金とは生活手段だとするタイプが多いけれど、男はお金の対価としてロマンを求めるからね。
「連絡をくれた、若武和臣くん？はどなたかな？」
「はい、僕です！」
息をつく暇もなく切り替えた若武はすぐさま、“理想の中学生”を演じる。
年上を敬って、一人称は僕、統率力はあるけれど謙虚…他にもいっぱいある、世間から僕たちが求められる理想像。
…なかなか、難しいよね。ハードル高すぎるもん。
「君たちが社会見学という貴重な機会を、我が社にあててくれて、とても嬉しいよ。未来ある若者をがっかりさせないように大まかなメニューを作ってみたから、楽しんでいってくれ」
ずっと案内してくれるっていうことかな？
そうすると、施設の裏を暴けないから誰かがトイレかどこかに行くふりをして冒険しなくちゃいけなくなる。
探偵チームがいつのまにか、犯罪者チームになっちゃうや。
もう慣れてきたけど、ね。
「とりあえず一周案内した後は、自由に見学してくれて構わないよ。せっかくだから探検みたいにみた方が我が社のことも知れるし、面白いだろ？」
やった！
「探検っ！！！僕、大好きな響きです」
若武はいつも、してるもんね。
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作者名：満粒 青 | 作成日時：2017年10月23日 10時
