第一印象 ページ3
無月の第一印象は『頭のいい人』だった。治の状況を瞬時に分析し、救いの手を差し伸べてくれた。無月の家に行く迄は案外変わってるけど優しい人では無いのだろうか、と思っていた。
そう、思っていた、だ。過去形である。
無月の家は大きくて治は驚いた。正直こんな莫迦デカい家を産まれて此方見たことが無かったからだ。和風の屋敷みたいな家は外見通り入ってみても広くて感嘆の声を治は漏らした。
家は広かった。家は、である。無月は家は広いのに塵やらなんやらでその広さを潰していたのだ。リビングなんて足の踏み場が無くて驚いた。
お腹空いた?と問わられ頷けば味の素が入った袋が出された。正直意味不明だった。味の素にケチを付ければ買い出しに行くことになった。無月曰く、今家には味の素と酒しか置いていないと云う。
無月と二人で渋々買い出しに行けば隣に居た無月が急に居なくなる。何処に居るのかと探せば川を流れていた。焦った。
何とか助け出せば舌打ちされ、何だ此奴と思ったが声には出さなかった。偉いと治は心の中で自分を褒めた。
また無月が居なくなった。また川か、と思えば知らない女性に心中の申し込みをしていた。あれが大人に見えなかった。
治は最初、自分を拾ってくれた恩返しをしようと思っていた。しかし其の考えは一瞬にして消え去り無月に対して殺意が沸いた。
「こんなのが大人なんて世も末だよ、本当に」
「こら!私を大人として何と呼ぶのさ!!」
「頭の逝かれた変人」
「酷い!!特に漢字変換が酷い!!」
「今時の子はこんなにも辛辣なのかい!?」と一人で叫んでいる無月を最早無視し始める治。どうやら無月の扱い方が分かってきたようだ。
「所で暑苦しいんだけど」
「ん?何がだい?」
「其の包帯」
治が指さしたのは無月の体中に巻かれた包帯だった。基本、無月は家でもパーカーのフードは取らないしずっと年中長袖長ズボンなので分かりにくいのだが首や腕、足などに至る所包帯が巻かれている。治はその事について指摘したのだ。
無月は少し解けた首の包帯を触りながら口を尖らせ云った。
「矢張り、まだお子ちゃまなのだねえ。君は包帯の良さが分かっていない」
「唯、暑苦しいだけでしょ其れ」
治の云い分を聞いた無月は「いいや違うね!!」と首を横に振った。
「私はこの包帯に何度も助けられて来たよ。川に流され死ねなくて、でも体温は奪っていくそんな時の私を温めててくれたのはこの包帯さ」
治は「莫迦らし」と云った。
45人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ