〃 ページ27
だから僕はA先輩を引き止めた。
行かないでほしいと、
ずっとここにいてほしいと、
だけど先輩は行ってしまわれた。
“六年い組、不知火A”
“卒業おめでとう”
学園長先生がA先輩にそう告げた瞬間、A先輩の体が徐々に透けて消えていった。
“嫌だっ、A先輩!行かないで!”
僕はA先輩に手を伸ばした。
だけど僕の手がA先輩に届くことはなくて、虚しく空を切るだけだった。
あぁ、A先輩との思い出が消えていく。
A先輩と過ごした日々が、全部。
声も顔も、次第に分からなくなっていく。
嫌だっ……
A先輩……
そして僕の中から、不知火Aは消えた。
それから僕はまた、幾度となく忍術学園の一年生を繰り返した。何度も、何度も、何度も……。
この繰り返される運命を知っているのは
僕と学園長先生だけ。
僕と学園長先生だけのはずなんだ……。
だけど僕は繰り返される日々の中で、何度もある夢を見た。夢の中では必ずある女の人が出てくる。僕は彼女のことを知っているはずなんだ。だって彼女を見ると胸が締め付けられるから。
僕は夢の中で彼女に問いかける。
貴方は誰なのかと。
そして彼女はその問いかけに必ず答えてくれるんだ。
でも彼女の声は聞こえない。
顔も分からない。
僕はもどかしくて仕方がなかった。
あと少しで思い出しそうなんだ。
あと少しで……。
46人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ずみ | 作成日時:2019年11月2日 17時