語り/黒木庄左ヱ門 ページ26
僕は知っている。
この世界の時間が進まないことを。
いや、実際には進んでいる。
ただ、また戻るのだ。
春、夏、秋、冬、そしてまた春が来る。
しかしその春は同じ年の春。
繰り返される同じ年。
だから僕たちがこれ以上歳をとることはないし、僕たちがいくら忍術学園で忍術を学んだとしても、僕たちがプロの忍者になれることはない。
僕たちはただ、与えられた役割を果たすだけ。
しかし稀にいるのだ。
この繰り返される運命から、抜け出そうとする者が。
____六年い組、不知火A。
まさに彼女がそうだ。
A先輩は僕と同じように、この世界が繰り返されていることに気づいていた。
本来、この世界の人間はそのことに気づくことはない。何故ならそれがこの世界では当たり前であり、脳にそう植え付けられているからだ。
この世界にとって、それが正しいのだ。
だから誰も違和感を持たない。
だけど、学園長先生は違う。
学園長先生だけは、最初からこの世界が繰り返されていることを知っていたようだった。
ある日、A先輩が僕に言ったんだ。
“私はこの先にある未来を見てみたい”
僕はすぐに察した。
A先輩は、ここを“卒業”する気なのだと。
ここを卒業するということは、この世界から存在が消えるということ。そしてこの世界から存在が消えるということは、A先輩と過ごした記憶が僕たちからなくなるということ。
僕は嫌だった。
A先輩の声を、
A先輩の姿を、
A先輩との思い出を、
全て忘れてしまうなんて。
だって僕は、A先輩のことが“好き”だったから。
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作者名:ずみ | 作成日時:2019年11月2日 17時