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ペアチケットを貰ったけれど、彼にどう連絡をしようか。
彼と出会ってから四年が経ったが、二人で一夜を越す事を避けてきた。理由は特にないが、彼と私の暗黙の了解だった。
「いや…考えたら負けよね、一緒に旅行に行くだよ!頑張れ私!」
思い切ってアドレスからFの欄を開いた。
耳元で流れる規則的なコール音。
口から心臓が出てきそうな、まさにそんな緊張。
「もしもし?A?」
「しゅ、周助…も、もしもし!!」
彼は塾のチューターのバイトをしているから、七時という授業が始まる時間に彼が出てくれるか心配だった。
嬉しさと、気まずさ。
出て欲しくなかったと思う自分に嫌気がさして思わず天を仰いだ。
「どうしたの?」
「あの、あのね……!」
旅行に行こう、なんて恥ずかしくて言えない。
もう高校三年生だ、多少の知識はある。
友達にもそういうコトを経験した子だっている。
顔から火が出るのを明らかに感じながらえっと、と呟いた。
「そういえばAは、もう受験だよね。内部推薦も厳しいからね、枠も少ないし。」
彼の言葉で一気に現実に引き戻された気がした。
「そう、だから、受験が、終わったら……旅行…行かない……?」
瞳をぎゅっと閉じて、右手であと半年しか着れない制服のスカートを掴んだ。
時計の針の音と、微かに聞こえる母が料理を作る音。
たったの一瞬なのに、物凄く長い時間に感じた。
待っても応答のない彼。
やはり暗黙の了解を破ってはいけなかったのだろうか。
彼の方が人生経験が豊富なのは否めない。彼と私の暗黙の了解は、恋人として関係だったのか、社会人と高校生という関係としてだったのか。
「周助…あの、ご、ごめんね。」
こんなに黙り込む彼は初めてだ。
暗黙の了解を破ってしまった私に対しての失望か、これは彼にしかわからない。
目尻が熱くなった。
彼の事になるとこんなにも潤んでしまう。
「本当に、」
「へ?」
「本当にいいの?」
声だけでもわかる、本当に彼は私のことを心配しているのだと。
「……私は、周助とずっといたい……です…」
「僕も、Aとずっといたい。……行こうか、旅行。」
暖かくて優しい大好きな彼の声。
彼に何もかもさずけよう、そう思った夜だった。
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ゆーり - めちゃくちゃ感動しました!あえて主人公に手を出さないところとかがめちゃくちゃ不二っぽくて!ほんとに感動でした! (2021年3月14日 16時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
桜田 しおり(プロフ) - 鮎太郎さんさん» そう言って頂けて嬉しい限りです。これからもこの作品をよろしくお願いします! (2018年9月29日 20時) (レス) id: ef32a79d1d (このIDを非表示/違反報告)
鮎太郎さん - ヤバイです!不二先輩かっこよすぎます! (2018年9月27日 22時) (レス) id: 41a4e5daec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜田 しおり | 作成日時:2018年9月14日 7時