冒険の傷痕:21 ページ23
小鳥の群れの鳴き声で、目が覚める。
目を擦り体を起こすと、茂みの奥からカミュが顔を出した。
「起きたか。食えそうなもん採ってきたから、適当に食えよ」
「ありがと。…イレブンは?」
「まだ寝てる」
カミュが採ってきたという果物を手に取る。赤紫色っぽくて小ぶりな果物は、噛むとぷちっと果肉が弾けて甘酸っぱさが口の中に広がる。後味に苦味があるのが少し難点かもしれないが、これはこれで美味しい。
幾つか口に放り込んだ後、まだ眠たそうなイレブンがテントから出てきた。
果物を囲んで腹を満たせば、顔を洗うからと私は焚き木の跡を離れて近くの水場に足を運んだ。
顔を洗うついでに、寝ている間にくしゃくしゃになった髪を濡らして解す。髪を絞って水気を取ったあと、腰に巻いていた朱色の布を解いて顔と髪の毛を拭いた。
髪と髪の間をすり抜けるほんのり温かい風が気持ちいい。ブーツを脱いで晒された足先を、ちゃぷりと川の水に浸す。
風に揺れて現れた陽だまりと、水の冷たさの心地良さに、思わずうっとりと目を閉じた。
「なーに微睡んでるんだよ」
ざり、と土を踏んで現れたのはカミュだった。
「髪下ろしたのか」
「…うん。結ってると、熱が籠るから。あと汚れも溜まりやすいから洗ってた」
「ふーん、女は大変だなぁ…」
カミュは私の隣に、やっぱり人一人分の間を開けて、どかっと座った。
…髪を摘んで、そろそろ結おうかなと考える。もう少し乾かしていたいが、急ぎの旅故にそれも憚られる。
腕にまいていた赤色のリボンを解いて口に挟む。垂れていた髪を全部後ろに持って行って一つに束ねる。片手で髪の束を持って、もう片方の手でリボンを取ろうとした時に、襟足辺りに違和感を感じた。
「一筋残ってんぞ。…お前、案外雑に結うのな」
「…うるさいよ」
「ほら、貸してみ」
「別にいいって」
「いーからいーから」
諦めて口に挟んでいたリボンを渡して、カミュに背を向けて座る。一度下ろされた髪を、カミュは丁寧に一つに束ねていく。
髪を梳かれてくすぐったく思っている私など気にもせず、カミュはあっという間に髪を結ってみせた。
水面に映った私の髪は、いつもの何倍も整えられていた。
「…凄い。器用なんだね」
「結われたかったらいつでも結ってやるからな」
「結構です」
ぽんぽん、と頭を撫でられる。カミュは立ち上がると来た道を戻り始めた。
「もうすぐ行くからな、微睡んでないで準備しとけよ」
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千織(プロフ) - チロル/CHIROLさん» チロルさん、初めまして!有難いコメント、とても嬉しいです…!これからも精進していくので、見守って頂けたらと思います! (2018年11月3日 7時) (レス) id: 43a89afe6e (このIDを非表示/違反報告)
チロル/CHIROL - はじめまして!ドラクエファンなので、ドラクエの夢小説を書く人がいるのか!と驚き拝見させていただきました!掴みにくい世界感を表現されていて千織さんはすごいと思いました!これからもがんばってください! (2018年11月2日 22時) (レス) id: f7aec74604 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千織 | 作成日時:2018年10月29日 20時