冒険の痕跡:22 ページ24
妖精みたいだと思った。
比喩でもなんでもなくて、ちろちろと覗く陽だまりに川の水に素足を垂らして微睡む銀髪の少女が、妖精に見えた。
温かい陽の光に照らされて煌めく銀髪も、時折覗く濡れた紅い瞳も、服から伸びるしなやかで少し色白の手足も、綺麗だと思った。
…馬鹿か、オレは。
惚けてる場合じゃねえんだ。顔をしかめて、熱を帯びた思考を振り払うように頭を横に振って、キャンプ場に戻る道を辿る。
「おかえりー…ってカミュ、早かったね。顔洗うんじゃなかったの」
「やめた」
不思議がるイレブンの問いに短く答えると、川があった方角とは反対側を向いてどかっ、と大袈裟に座る。
こんな時に、あんなことを考えた自分が恥ずかしい。
街の女にも抱いたことのなかったものを、まさか弱冠十五の少女に抱くとは思わなかった。あの牢を出てから、お人好しの勇者に会ってから、オレは丸くなりすぎたのかもしれない。
アイツはただの仲間だ、と自分に言い聞かせて、自分の荷物を荒っぽく寄せて整理する。とは言っても普段持ち歩く荷物などそこまで多くはないのだが。
「二人とも、おまたせ」
木々の間からAが顔を見せる。先程の絵になるような雰囲気は消え失せて、少し幼い旅人の顔に戻っている。
あれは幻だったのかもしれない。きっとそうだ、あの小さい背中も、眩しいくらいの笑顔も、鮮やかな空の色も、きっとつかの間の夢だ。
そうだ。あれは幻だったんだ。と一人納得して、荷物を纏め始めるAに「早くしろよ」と声をかけたのだった。
63人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
千織(プロフ) - チロル/CHIROLさん» チロルさん、初めまして!有難いコメント、とても嬉しいです…!これからも精進していくので、見守って頂けたらと思います! (2018年11月3日 7時) (レス) id: 43a89afe6e (このIDを非表示/違反報告)
チロル/CHIROL - はじめまして!ドラクエファンなので、ドラクエの夢小説を書く人がいるのか!と驚き拝見させていただきました!掴みにくい世界感を表現されていて千織さんはすごいと思いました!これからもがんばってください! (2018年11月2日 22時) (レス) id: f7aec74604 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:千織 | 作成日時:2018年10月29日 20時