女王の朔望月 (ページ23)

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待ちわびた声
確かめたかった存在

その余韻に浸りながら、耳元のスマホを離す

離したスマホには連絡アプリのトーク画面に“通話”の文字と電話のマークが付いていて数十秒前の出来事が嘘では無かった事を教えてくれる

｢(……人騒がせな姫様なこった)｣

安心か、感動か、
入り交じる感情にボヤける視界を押えて天を仰ぐ

｢(……0時になった瞬間逃げ出した姫様の硝子を靴を拾った王子の気持ちはこれか。)｣

今はまだ動乱の中にいるかもしれないが、これが終わったら必ず、

必ず彼女を連れ戻す

二度と後悔しないように。

空にはっきりと浮かぶ青白い月を眺め、手元のスマホを握りしめた時

＿＿＿ｷﾞｨ

背後から聞こえた扉を開ける音に振り返ると、そこには自分と同じ黒髪を持った可愛い弟が立っていた

｢おぉ！りつ！お兄ちゃん来てくれて嬉しいぞ♡｣

滅多に部屋に来てくれない。
と言うか口さえ聞いてくれない彼がこうして現れてくれた事に有頂天になり、“おいで♡”と手を広げた

どうせ来てくれない

そう分かりきっていた事なのに、

｢〜〜〜！？｣

なんてことだ。凛月がこちらに歩いてくる。

すたすたと歩いてきた凛月を抱きしめようと近寄った瞬間、

｢っ、｣

不意に視界が歪む

｢ねぇ兄者。

＿＿＿＿＿Aはどこ｣

初めて聞いたドスの効いた声にハッとした時、自分が胸ぐらを掴まれている事に気づく。

目の前にいる弟の赤い瞳は怒りに染まり、悲しみの涙が湛えていた

｢言って｣

｢り、つ。……我輩はしら、ないとっ、｣

｢嘘つき｣

……嘘つき？俺が？

可愛い弟の痛烈な発言に動きが止まってしまった刹那、手元からスマホが奪い取られ

“…最悪”という声が鼓膜を揺らす

｢……最初から全部知ってたんでしょ。Aの事｣

｢…何を言っておる？先程のは＿＿＿｣

｢っじゃあ！！“またね”って何！？ずっと連絡取れてたからそんな言葉言えたんでしょ！？！？｣

｢違う！｣

｢早く答えてよ！ねぇ！！Aに会わせてよ！！｣

もう声が届いていない凛月は胸ぐらを掴んだまま俺の身体を揺らし責め立てる

けど、

知っていたならこんな事にはならなかった。

身体を揺らす腕を優しく掴んで名前を呼びかけると、俯いたまま身体を離す

｢……なんで兄者なの｣

｢りつ、｣

｢もういい。｣

…なぁA

部屋を去っていく弟を見るしか出来ないなんて

兄失格だな