第五十九話 ページ13
「お前の母さんの鹿乃花さんは、村社会で育ったんだ。」
「村……?」
「そうだ。彼女はその村で不吉とされる日に生まれた。それだけなら良かった。ただ、鹿乃花さんはその村で不吉とされる美しい女児だった。だから、村の連中から気味悪がられた。」
「!!」
「それで、居場所がなかったときにAの父さんに出会ったって。名前は教えてもらってないけどな。」
「私のお父さん…」
「父さんは病死しちまったみたいだ。」
「そう…」
「鹿乃花さんに近付こうとしたものは皆不幸になったらしい。そこで、このままでは命の危険を感じた鹿乃花さんは赤ん坊だったお前を連れて逃げてきた。
村の外を知っていたAの父さんは俺らの父さんと知り合いで、何度か鹿乃花さんもあったことがあったから、その繋がりで鹿乃花さんは俺らの父さんを頼ってきたんだよ。」
「……」
なんで私が、たびたび人に恨みの感情を向けられるのか、少しわかった気がする。
母さんの存在だったのね。
多分、私を逃がすために村から降りてきて、その先で誰かを不幸にしてしまったのかもしれない。
「……母さんが私を嫌うのは、鹿乃花さんみたいに私が不吉な子だから?」
「……ううん、違うよ、A。多分だけどさ、父さんが鹿乃花さんを愛していたからだよ……」
「え…?」
父さんが、私の本当のお母さんを…?
「父さんは母さんを大事にしてるけど、やっぱり鹿乃花さんを完全に忘れることはできなかったみたいでさ。母さんはAを育てたがらなかったけど、父さんは最後までお前を手放そうとはしなかった。大事な人の子供ってのは勿論あるけど、何より…お前は鹿乃花さんに本当によく似てるから……」
「そうだったんだ……それから、私のお母さんは…どこにいるの?私のせいで、酷い目にあっちゃったんでしょ…?会いたい、私、会って謝りたい…」
「……ごめんな、A。」
次の瞬間、竜ちゃんと蘭ちゃんに抱きしめられてた。
「鹿乃花さんは病気にかかってた。戻れば命がないことも、分かっていたけど……お前を確実に村から離す為に、あの人は戻っちまった。俺たちは彼女とは、それっきりだ。」
淡い期待は、絶望と共に消えていった。
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年10月16日 19時
