Ave Mariaと薄紅色 ページ10
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「 うわあああぁ！ 」
素っ頓狂な声を上げて、彼女は走り出した。向日葵の中を駆け抜けていく背中に、病室での面影は存在しない。輝いた瞳を上げた彼女はいつの間にか随分遠くまで駆けて行った様で、よく映えるTシャツの白に近付こうと踏み出した。
「 これも海だね！きいろい、きいろい海 」
すいすいと泳ぐ真似をした彼女の肌は、俺の肌よりも幾分か白い。日焼けをしてみたいのだと主張された時、猛反対して「 あんたはその白い肌大切にしな！ 」と無理矢理日焼け止めを塗りたくった甲斐があった。当の彼女は「ちぇーっ 」と唇を尖らせていたが、後で肌ヒリヒリしてもいいのと問うと身震いして大人しく塗られていたのだ。
笑いながら走って行く彼女がふと振り向いた。目を開いて飛び込んできたのは太陽よりも眩しい表情だった。
あ、り、が、と、う。
口がパクパクと動いた。声も聞こえなかったのに脳内でその言葉に変換される。何だか出発した時のありがとうとは違う意味を含んでいるような気がした。病室から連れ出して良かったと胸を撫で下ろす。
「 ……あ 」
「 うん 」
漸く彼女に追いついて、目の前にあったのは小さな教会だった。今にも廃れそうな非日常。
「 あんたを連れて来たかったのはここなんだけどさぁ、まぁ、願ったり叶ったりだよねぇ 」
向日葵畑を抜けた先に佇んでいた教会に、吸い込まれて行く。もう何年かは人が訪れていなさそうだが、何故だか良い空気が流れていた。
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こつん、最初の一歩が鳴り響いた途端彼女は歌いだす。
「 あーべーーまりーーあー 」
「 …ちょっと 」
「 Ave！ 」
「 …いきなり省いたねぇ 」
「 瀬名くんが止めるからじゃん 」
教会のど真ん中、敷かれた古い絨毯の様なものの上を堂々と歩いて行った彼女の後ろを追いかけた。3歩ほど間を置いたのだが、それは案外短く彼女はもう目的地に到着してしまっていた。昔は結婚式にでも使われていたのかもしれない、低い2段ほどの階段を登って彼女は呟いた。
「 どうか、幸せであって 」
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「 _____Amen 」
終わりの合図にそう囁いた彼女は、振り向いて、困った様に笑った。
「随分欲張りになっちゃったみたい 」
薄い桃色に口付けた。教会に、否、チャペルに小さな音が木霊して、割れたステンドグラスから光が差し込んだ。唇を離して我に帰り、彼女を見つめれば ふふ、と笑ってからあの日の様な涙を一粒だけ零す。
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2018年4月25日 5時
