たいようのいろ ページ9
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それから一言も交わすことなく、彼に近付いた。どうしたの?なんて聞く気にもなれず、ただただ他人事と押し流す。
「 どうしたの 」
「 …え? 」
「 なんか変な…不細工な顔してるからさぁ 」
「 失礼な! 」
その言葉をそっくりそのまま返したくなった。クエスチョンマークを湛えた彼の表情は、もうすっかりいつものものと変わらない。ほっと息を吐いたのも束の間、彼はその一瞬で私の手を掴み上げた。
「 ……そういうの、いらない 」
「 なっ、何が? 」
「 いらぬ心配は御無用だって言ってんの 」
「 ……ふふ、あはは 」
「 何笑ってんのぉ 」
「 だって、如何にも心配して欲しそうな顔!ふふふ 」
もういい、と背中を向けた彼に端末を向けた。漏れ出たシャッター音に思いを巡らせる。まるで小さな子供みたいに、何だか可愛らしかった。こんなことを思うのは初めてで、彼は今日、まだ半日しか経っていないのにいろんな初めてをくれた。いつか恩返しが出来たならいいな、と思うが、そのいつかはまず病気を治すことに専念しなければ永遠にやってこない。
あぁ、これが、案外幸せというものなのかもしれないと、唐突に感じた。
蝉の声が一瞬止まり、また響きだす。合唱団でも作っているのだろうかと思うほどの団結力。彼らが夏の先を見ることができないのならば、私がその無念を果たさなければいけない。
生きよう、生きて、幸せを紡ごう。今日命がなくなる人の分も、今日生まれた人と共に、そして彼の背中を追いかけるために、生きようと思った。
「 そろそろ行くよ 」
「 うん 」
初めて見たその景色は 涙も引っ込んでしまうほどに鮮やかで、あの病室を出て一人で生きられるようになったら、海の見える部屋を借りようと密かに決心したのだ。それはどんなに幸福なことだろうと今から浮き浮きした。
バイクに跨がろうとすると、露出した肌に焼けるように熱くなった座る部分が触れた。「 あちっ 」、思わず声を上げると彼は吹き出す。「 馬鹿 」、「 馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ 」。そんな不毛なやり取りをして、今度は二人で吹き出す。こんな些細な事も嬉しく感じてしまうのだから、私もまた新しい病気にかかってしまったかなあ。
これから向かう先がどこかも知らずに背中にしがみついて、潮でべたついた髪が棚引いた。行きとは違う道に戸惑うも、視界の前から後ろに流れていく黄色に気づく。
バイクはそこで停止したのにも関わらず、私の瞳は一面の向日葵畑に奪われたままだった。
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2018年4月25日 5時