パライソはまっさお ページ6
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只管に長い廊下を歩いていた。
踏み締めた足音は軽く響く程度、通学用の靴ではなく軽いものだから当たり前だろうが。
辿り着いた個室に、彼女の名前が取り付けられている。この扉を開くのにはそれなりの心構えが必要で、毎度深呼吸を繰り返してからできるだけ勢いよく開くようにしている。
今日もそう、_____いつものテンプレートをなぞれば、やはり彼女はいつもの如く聖書を枕元に置き、人差し指を口に当てて「 しーっ 」と微笑んだ。
この病室を訪れるのは何回目になるのだろうか。知らないふりをしている彼女の病名は、主治医が呟いているのを聞いてしまったし、致死率が高い、救いようのないものだとわかっていた。彼女が知られたくないと思っているようだから知らないふりをしているだけで。
だから、俺にできることといえば夢を叶えてあげる、ことくらいだ。簡単に言ったが、実は本当に簡単なことである。然し彼女の場合になると難しくなるだけで。今すぐ叶えるというのならばまずは点滴を引きちぎって彼女を攫うより他に方法はない。
おおきなおおきな夢を語った後、自ら「 恥ずかしいから忘れて 」と笑い出した。自分から語り出したのに、無責任すぎやしないか。長い髪を耳にかけた後、彼女はまた表紙に触れる。
「 そういえば、昨日から何読んでんの 」
「 緋文字 」
「 … 」
「 んー、知らないかぁ 」
そう言って、今度は黒い表紙に手を伸ばした。背表紙に書いてあるその文字を目にするのは何回目だろうか、それほどの頻度で彼女はこの本を読んでいた。
「 また聖書？ 」
「 うん、まぁね 」
_____神様は、あんたを裏切ったのに。
「 ねぇ 」
「 何？ 」
「 …なんでもない 」
なんだよ、と笑った彼女に告げるときはいつになるのだろうか。そして、ポケットの中のこの紙を見せればどんな表情をするだろう。わからないことがたくさんで、１日１日を歩んでいく。
ページを捲ろうとしたその手を思わず掴んだ。吃驚して飛び上がった拍子に、彼女の膝の上にあった聖書は閉じ、再びその表紙を見せる。
「 どうしたの？吃驚したんだけど 」
「 プレゼント、持ってきた 」
真っ直ぐにその瞳を見つめた。どこかで見たことのあるその瞳の色は、病弱なやつ特有なのだろうか。丁度この病院に入院していた彼奴と重なって、駄目だと首を振り見据える。
戸惑った様な光が瞬く。
折り畳んだ紙を彼女の手に乗せ、それを開いて見せれば、彼女は一粒だけ涙を零した。
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2018年4月25日 5時
