◇ ページ21
そうだ、これで最後になってしまうのならば、本音を言ってみようか。
＿＿俺をその手で、地に還してください。
「＿＿踊って、ください」
言いたいことと、違ったな。でもいいか、これで最後になるなら。大往生のラスト一小節、君と踊ってみたい。
人生はカセットテープみたいなものだって、昔むかしに誰かが言っていたような気がする。永遠に繰り返す
「ノン・メルシィ」
真意を、読み取っていたのだろうか。俺の愛したあんたは、いつも強気で、可愛げがなくて、やっぱりあたたかい。
陰雨は身体を通り越してどこか遠い街へ行ってしまった。じめじめ、暑さだけ残して。忘れ形見に、だなんて、君と出会った季節を忘れるわけないのに。
「随分強引」
引っ張って、謎のステップを踏んで。覚束無いふらふらは、少しの暑さのせいにして。せめて最後だけ愛を。胎盤から、臍の緒を通して、愛だけを送ってください。ごめん、俺の中は空っぽすぎて、君に渡すものは何も無い。
「凛月」
一緒に生きてきた夜を、きらい！なんてはっきり言えないけど。でもやっぱり、生まれた時から、そいつのことは好きじゃなかった。
だって、すごく俺にそっくり。
「なんで泣いてるの」
涙は血液なのだから。俺の生きてきた時間だけ、溜まってしまった液体。決して、綺麗なものなんかじゃないけど。世界は、やっぱりもやもやと霧に包まれていて、優しくなんてない。
無限だったものが有限になるのはやっぱり悲しいし、一緒に生きてきたものを剥がしてしまうのは痛いけど、きっとこの夜が明けたらもうひとりぼっちじゃあない。
空は割れてしまったのだろうか。
優しくない世界が、どんとん剥げていく。鉄色の空、あれ、晴れているはずなのに。
きっとこれで、最後の夜になる。
「俺のおかあさんみたい」
例えるなら、暗い夜。そこから朝の中に生み出されたとして。やっと俺は、また夜闇の中で眠りにつけるんだなあと思う。
「ちがうよ」
俺の骸を抱き締めて。そして、いつか割れてしまった世界の欠片まで見える望遠鏡を買ったなら、新しくできた星を見つけてください。君の名前を、付けてね
回帰
．
．
胎内回帰
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2019年8月26日 19時
