二度目の人生はあの子が愛した世界で“肆”【文豪ストレイドッグス】

佰参拾陸 ページ8

火薬が炸裂し、薬莢が跳ね、轟音が広間を満たした。


ジイドの拳銃が眼前につきつけられる。
私は肘で拳銃を払う。
顔のすぐ横で弾丸が炸裂し、耳の横をかすめて飛んでいく。


私は拳銃で空間を切り取るように水平に半回転した。
そのままジイドの眉間を狙う。
ジイドの手が下から伸びてきて、私の肘を摑んだ。
軌道を逸らされ弾丸は空中のシャンデリアを砕いた。


肘と手首、手首と銃口がぶつかり、相手の銃の軌道をぎりぎりで逸らしていく。
耳の上を、顎の下を銃弾が飛び去っていく。
殴り合うほどの距離で無数の銃火が燃えさかり、お互いの間に閃光の壁を描き出していく。


ジイドの引き金と私の引き金が同時に空を叩く。弾切れだ。


私とジイドはそれぞれの右腕を交差させたまま、同時に弾倉交換を始めた。
空弾倉が落ちた。
ジイドが腰の予備弾倉を抜いた。
私は手首のバンドから交換用弾倉を抜いた。


ジイドは予備弾倉を銃に再装填しようと動いた。
だが私は右腕を払ってそれを阻止し、左手に弾倉を握ったまま鉤突き(フック)を放った。



弾倉の金属が皮膚を裂き、ジイドの頬に朱線が走った。
ジイドは体勢を崩しながらも装填を終えた。


私はジイドに背中を密着させるように回転し、射撃動作を妨げたうえで半円運動の肘鉄を放った。
腰を落としてジイドが回避。
円運動の終点で私は弾倉を拳銃に装填した。


同時にお互いの眼前に銃口をつきつけた。
お互いに相手の右手首を左手で摑んだ。


奇妙な姿勢で私達は静止した。


私の眼前に銃口。
ジイドの眼前にも銃口。
ジイドの銃を私は左手で摑んでいたが、ジイドも私の銃を左手で摑んでいた。


左目には銃口。
右目には、ねばつくような紅色の視線。




｢A……最高だ。何故もっと早く乃公の前に現れなかった｣


『悪かったな。今日はとことん付き合ってやるさ』




手首の拘束を振り払おうとすればその隙に撃たれる。
だがそれは相手も同じ。
極めて微妙な力の均衡が私達を静止させ、会話を成立させていた。




｢何故殺しを止めていた、A｣


『何故戦場を求める、ジイド』




そのとき、足音が聞こえた。
複数の人間が広間の向こうから走ってくる音だ。




『お前の部下か？』


｢貴君の同僚か？｣




足音は舞踏室の前方と後方、両方から聞こえてくる。
音からして合計十人程度。
足音がミミック兵なら、迚もジイドと一度に相手はできない。
突入の瞬間にジイドを倒し、兵士達の相手をするしかない。

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