二度目の人生はあの子が愛した世界で“肆”【文豪ストレイドッグス】

佰伍拾壱 ページ23

すぅ、と息を吸い込んで吐き出した。
幸い、未だ喉の奥に血が溜まっていないので私はもう少し話す事が出来る。




『ジイド』




生憎身体は動かせず顔だけ向ける形になるが、確りと彼の目を見て私は口を開いた。




『お前に云いたい事は先刻云った。が……改めて云おう。最初は戸惑うだろう。それでも生きて足掻き藻掻くんだ。何か困った事があればジイルに頼め。大丈夫、私が保証しよう』


｢っ、嗚呼。本当に感謝する、A｣




大丈夫、大丈夫だからな。
お前はお前が思っている以上に強い。
だから屹度この先も……




──次にいかなければ。




『ジイル』




視線をジイルの方へと移し、彼が握る手とは反対の手で優しく頭を撫でた。
こうして見ると彼は歳上の癖に泣き虫で何処か幼子の様に見える。




『今後、私の事で気に病むな。之は私が望んだ事だからな。お前は再び与えられた生を今度こそめいいっぱい過ごせ。それと彼等を支えてやってくれ。善いな？』


｢気に病むなだなんて難しい事を願うのだな、貴女は……最善を尽くそう｣




お前が居たから私は此処までやれた。
少ない時間だったが共に暮らせて楽しかったよ。
それと、気持ちに応えてやれず悪かった。




──さあ、次。




『作之助』




段々と上がらなくなる手を、そろそろと力無く挙げると作之助は空いた方の手でギュッと握り返してくれた。


嗚呼、この手だ。
私はこの手に何度も救われた。
大きくて、温かくて、優しくて、ついつい頼ってしまう＿＿そんな彼の手が、彼自身が私は大好きだった。




『森さんと異能特務課に頼み、お前とジイドとジイルは異例になるが見逃してもらった。だから今後は親爺さんの店もポートマフィアの管轄外になる』


｢Aは知らないかもしれないが親爺さんも子供達も、もう死んでいる。若し管轄外になったとしても……｣


『云っただろう、私は全て知っていると……作之助、済まなかった。“嘘”とは云え、辛い記憶を植え付けてしまって本当に済まない』




私の言葉に作之助はピシリと固まった。
然し直ぐに私の握る手に、ほんの少しの力が籠った。
私達の好きな海に似た彼の、天色の瞳が波打つようにユラユラと揺れていた。




｢な、ら……まさか、親爺さんも、子供達も？｣


『嗚呼“生きてる”よ』




ぷつんとずっと張り詰めていた彼の糸が漸く切れたらしい。
彼は私の額に自身の額を合わせ小さく息を吐き出した。
そして非道く安堵した表情で笑った。

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