君の笑顔が見たかった[伊東鴨太郎] その3

第１０５話 ページ9

土方｢伏せろ！｣

　トシが叫んだ。銃声が鳴り響く中呆然と立ちつくすAちゃんを、誰かが力ずくで庇った。短い悲鳴をあげるAちゃんに対し、トシは声を荒らげた。

土方｢A！ このままだと死ぬぞ！｣

言われ、Aちゃんは大慌てで列車の床に伏せる。銃撃をやり過ごしている間はとうてい生きた心地がしなかった。

　それから、一体どのくらいの時間が過ぎたのだろう。長かった銃撃が、ようやく止んだ。恐る恐る顔を上げると、俺たちの眼前に立っていたのはーーーー

近藤｢先生ェェェェェェ！！｣

土方｢伊東！！｣

｢兄上！！｣

　俺たち三人が叫んだのは、ほぼ同時だった。幾度か吐血した後、先生はよろめく。そして、ふらりとトシの元に倒れこんだ。

土方｢伊東ォォォ！｣

｢兄上、しっかり！！ 兄上！｣

Aちゃんが、迷わず先生の側に駆け寄る。しかし、傷の程度からもう助からないと悟ったのだろう。彼女の目から、涙が溢れ出していた。

｢兄上、死んじゃ嫌だよ！ 一緒にいようって言ったじゃん！ ねぇ、兄上‥‥！｣

　彼女は叫び、顔を覆って泣くばかり。その時、風が吹いたかと思うと女性の姿をした精霊が現れた。

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