さかさのかさ/五条悟 ページ35
「雨だねえ」
「だねえ」
「ちょっと窓際だから珈琲が冷めちゃうね」
「その珈琲は多分もう冷めてるよ」
あれ、そうだっけ。そう言いながら、からからと彼が笑って、それに釣られて私も笑う。私達はこんな風に生産性のない会話をもう小一時間続けていた。
もうどちらがどんな言葉を発したかもよく分からない。頭の使わない言葉のキャッチボールは多分まだ続く。
今日は雨が降ってくる予定だったのを忘れていた。今日は降水確率が高いと家を出る前にニュースか何かで見た筈だったのに。
「傘は持ってきたの?」
目の前の彼女は首を捻る。どうやら私を心配してくれているみたいだ。
「残念ながら」
私は肩を竦めた。これからどうしようか、と言いたげに。相合傘なんて下心は一切ない。だって彼には愛する人がいる。私にも居ないわけじゃない。そして私の慕う人は彼ではない。
「傘といえば」
また唐突に話の流れが変わった。彼女はそうやって急に前までの話を断ち切るきらいがある。今彼女の隣に居るであろう人はこの事を知っているのだろうか。
「よく小さい頃はぶん、って傘を振り回して、傘のあの、なんて言うのかな。持ち手じゃない雨を凌げる所?を逆向きに反らせたりしてた」
と笑う。私にもそんな風に馬鹿なことをやっていた記憶がある。
御三家のお坊ちゃんの癖してそういう所が普通の子供っぽい。
「雨を避けるための道具なのに、逆さになった部分に雨を溜めてた記憶が無いこともない」
もう十数年前になる記憶の埃を押しのけながら私はそう答えた。
「雨と同じように愛情だって溜められたらいいのにねえ」
そう言って彼はまた笑う。
「目に見えないものなんだから溜まってるかなんて分からないよ」
私は溜息をつく。愛ってどうしてこんなに難しいんだろう。
「じゃあ、色を付ければいいよ」
「愛に?」
「そう」
彼は指をくるくると回し、テーブルの上でその指を滑らせ、踊らせる。どうやら絵を書く真似をしているらしい。
「愛が見えるようになっちゃったら、それはそれで大変だよ」
それもそうだ、と私の言葉に彼は苦笑いをした。
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葡萄ゆづゆ(プロフ) - ささまめ。さん» 時間的に私かな?と思ったので返信させていただきます。滅茶苦茶に嬉しいです、ありがとうございます。最上級のお褒めの言葉、創作者冥利に尽きます。本当にありがとうございます…… (2019年11月14日 20時) (レス) id: 167dee6e94 (このIDを非表示/違反報告)
ささまめ。(プロフ) - 最新話、題名とお話の内容、どちらとも何故か泣きかけました。いつも素晴らしい作品をありがとうございます。 (2019年11月12日 17時) (レス) id: 953be4ace3 (このIDを非表示/違反報告)
ロゼ(プロフ) - はるさめさん» そうなんですね すみませんご解答ありがとうございます 名前がどうだからこの作品を見ないっていう訳ではないのでこれからも読まさせてください 更新頑張って下さい 応援してます (2019年7月14日 23時) (レス) id: baa98cba69 (このIDを非表示/違反報告)
はるさめ(プロフ) - ロゼさん» 他の作者さんについては本人の意向があるだろうし何も言えませんが、私自身短編を書く時はなんとなく名前を出さないように書いちゃいますね。ですが名前を出す際は名前変換を使おうと思っています!解答になっていなくてすみません。引き続きご愛読頂けると幸いです。 (2019年7月14日 19時) (レス) id: 965a17df9d (このIDを非表示/違反報告)
ロゼ(プロフ) - いつも良い話をありがとうございます すみません 質問なのですがこの作品は名前変換がない作品なのですか? (2019年7月14日 19時) (レス) id: baa98cba69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:呪術廻戦1周年をお祝いする人 x他2人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2019年5月12日 22時