雷娘の災難 (ページ21)

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追憶の夢ページ21

___夢を見ている。

何の疑いもなくそう思った。

___『ジェラール、あのね！』

___『うん、聞いてるよ…A』

ああ、これは昔の記憶だ。

家を飛び出したまではよかったが、まだ８つ。その上箱入り娘であった少女一人では、生きる事も難しい。

凍える氷土を抜けた体は重く、ボロボロだった。

それでもなんとか街に辿り着いたものの、知らない街で知らない人の視線を受け、自分の知らない環境に、幼いAは適応できなかった。

そんな時、

___『大丈夫か？』

誰もが面倒事に巻き込まれぬようと見て見ぬフリをしていた街で、あの人だけがボクを助けてくれた。

「…ジェ…ラール……」

「___い_______おい、起きろ！」

「ん…っ…？」

意識が現実に引き戻され、重い瞼を開くと、珍しく焦ったような顔をしたラクサスが視界に入った。

「…ラクサス……どうしたの…？」

「…どうしたのじゃねぇよ……そりゃこっちのセリフだ。なんで泣いてる」

「え……」

自分の頬を伝う雫に気が付いたのは、それを指摘されてからだった。

「っ、やだ恥ずかしい…！見ないで！」

「もう見た」

「じ、じゃあ忘れて」

「…嫌だね。お前の弱みを握れたような気がして気分がいい」

「ちょっ、こんな時でも鬼畜か！！」

先ほどの焦った顔はどこへやら、完全にいつものラクサスに戻っていた。しかし、いつも通りのこんな日常に安心したのも事実だ。

「悪夢でも見たか？」

「ち、違うよ！ただちょっと懐かしい夢を見ただけ」

「…まあいい、そろそろ出るぞ。向こうは面白え事になってるようだしな」

「向こう？…フェアリーテイルに何かあったの？」

「帰ればわかる」

「そっか…」

ベッドから降りて荷物をまとめ、村長に挨拶して村を出る。もう長距離歩行にも慣れたもので、隣を歩くラクサスに話しかけた。

「ラクサスが面白いって言う事は、向こうは大事って事だよね？」

「オレの感性を疑ってんのか？…まあ、今回は否定しねーが」

「何が起きてるの？教えてよ！」

「だから、行けばわかるっつってんだろ」

「道中ヒマじゃん！」

「暇してろ」

「この鬼畜サス……！」

「あ"？」

「ナンデモナイデス」

口には出さないが、ラクサスと話していると時間が過ぎるのが早く感じる。つまり楽しいという事だ。初対面は最悪だったが、こんな日常を受け入れている自分も大概だ、とAは思った。