黎明の後日譚 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:812 hit

《愛詩》いつかの歌《クアドラブル・カオス・ランデブー後日譚》ページ5

*

「ふぅ……ただいまです」

「ぁ……お、かえり……姉さん……」

「愛詩さん、お邪魔してます!!」

「あら、響くん。あぁ、そう言えば今日は泊まるって言ってましたもんね」

「はい!!」

そう元気よく答える響の手にはドラムスティックが、その横で響の大きめの声に少し怯える大樹の手にはアコースティックギターが握られていた。
それは、かつて彼女達が様々なヒット曲のコピー曲を歌い奏でるバンド「chainS」として活動していた頃の物であった。愛詩はキーボードとボーカル担当、大樹はギター担当、響はドラム担当で……もう1人はベース担当。一部界隈ではそこそこ知られているバンドであった。

「あ……それ、懐かしいですね」

「っすよねー。大樹の部屋漁ってたら見つけたんすよ。アイツ、バンド辞めるって時に俺が捨てておくからなんて言ってたのにまーだ持ってたんすよw」

「っちょ、そ、その話はしないって、約束じゃ……」

「あはは……」

「……でも、惜しい時期に辞めちまったもんですよねー。もうすぐでメジャーデビューも夢じゃないって言われてたのに……」

……chainSを辞めるきっかけになったのは、当時大学生だった愛詩の就職である。
音楽だけでは食っていけないと悟った彼女達は、3月末に小さなライブハウスでひっそりと行われたライブを最後にバンドを解散した。
当時の熱狂を思い出したのか、大樹がぽつりと独り言を零す。

「……あれで、俺らは……誰かの、事、笑顔にしたり……助けることが、できたの、かな……」

「…………」

ふと、愛詩の頭に「彼女」との戦いの様子が浮かぶ。
あの時は生憎喉を痛めてしまったが……今でも頑張れば、あの頃のように誰かを元気付けられる歌が歌えるのではないか。
些か現実的ではないが、出来ないことは無いだろう。

「……あ、そう言えばお土産買ってきましたよ!」

「マジ!?んじゃ貰いまーす!!」

「お……俺も、貰うよ……」

土産の品である菓子折りを開封しながら、愛詩は来る未来(仕事)から目を背けた。