吸血鬼に捧げる歌なんかない (ページ43)

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すんなりと流れるようにベッドの中へ潜り込む零と、

飛び起きたものの同じベッドの中に居ることには変わりはないと状況を理解した上で慌てふためく少女。

「え？じゃないんじゃよ。我輩は吸血鬼じゃぞ…？陽光は致命的じゃて…。ほれ、もう顔色が悪くなってきておる…。」

よよよ、と具合悪そうに毛布を被る零を見て
自分の顔色は鏡で見ない分には分からないのでは？とツッコもうとしたが、口に出さずに抑えた。

「嬢ちゃんが泣き疲れて眠るまで、我輩は隣で昔のように背中をトントンしたんじゃから…。」

『…昔のようにってなんですか、された記憶ないです。』

「そりゃあ、眠りの世界に誘われかけている最中なんじゃから覚えていないのも無理はないんじゃよ。」

『そんな、赤ちゃんじゃ─…』

記憶にない自分の恥ずかしい過去を他人に暴露される事ほどモヤつくことも、嫌なこともない。

自分が口にしている単語が更に自分の羞恥度を上げていることを自覚した少女は、言いかけた言葉をとぎり、口を噤んだ。

「大丈夫じゃよ。昨日の嬢ちゃんを見れば、皆赤子と思うてくれよう。」

『絶対違います。話盛らないでください。』

「盛ってなどおらんよ。今も昔も我輩の可愛い赤子じゃよ。」

『なんで赤子なんですか！私も成長してるのに…。』

成長した、という観点においては昨日の出来事と言い、幾ら古くから馴染みのある友人、否最早身内ともいっていい人物の前で、ああも泣いてしまっては

正直赤子と呼ばれても仕方があるまいし、そう捉えてしまえば成長出来ているのか、と疑問も湧いてきてしまうもので

最後の方は自信がなくなると共に声も比例して、ぼそぼそと小さくなる。

そんな少女を見て零はまたくつくつと笑った。

「分かっておるよ。」

『それ絶対本気にしてない時。』

「バレておったか。」

『ほら、やっぱり！…酷い。』

「すまんすまん。許しておくれ。」

少女が拗ねたように漸くベッドから地に足をつけ、立ち上がる。
零はその様子を目で追っている内に眠りについた。

零がほんの少し休息を取り、それから次に起床したのは昼頃であったが少女はなんやかんや言いつつもそこに居た。
カーテンで仕切られた部屋は、何時でも夜の様で時間感覚が狂いそうになってくる。

起きた零に少女がベッドに腰を下ろしながら

『…昨日は有難うございました。制服と、それから私の話を聞いてもらって。』

と言った。