28 ページ28
時間は思っていたよりも早く流れていた。
SNSでの写真は見つけられたものの、盗んだという証拠もないのだから一概に娘が動いたとは証言しづらい。
自分が初めの頃から今の今まで何かと絡まれ、物を無許可で使われたり陰口を言われていたからといって決め付けるのは此方としても不利である。
情報が足らなさすぎる。
楽譜が無くなってから早三日が経過している。
どうにかして見つけ出さなければならない。
ファイルごと抜き出されているのは、たちが悪い。
音楽室に行くどころか、ピアノもまともに弾けやしない。
少女は学院内の教室をくまなく探し続けた。
それこそ、ゴミ捨て場も含めてだ。
広い学院内で一つのファイルを見付けるという難解な行為は、無謀と言えるであろう。
一人で探しているとなると尚更の事だった。
音楽室にも顔を出せず、零にはまだ楽譜の事は伝えていない。完成していないと言って誤魔化している。
一体何処に持ち去られてしまったのか…。
辺りを見回しながら、時折窓の下なんかも覗いて見ながら捜索を続ける。
そうしていると別校舎に辿り着いた。
一度は確かめに行った場なのだが、灯台もと暗し、そういった場所にこそあるやもしれないと思い足を踏み入れる。
別校舎は基本的に移動教室の場合のみに使用されるのであまり人気はない。
用があって立ち入るとしても教師からの許可や鍵が必要であるし、簡単には立ち入れない。
必要な設備は概ね本校舎に揃っているので、使われる頻度としては年数回と言ったところだろうか。
前回は態々鍵まで借りて捜索したのだ、見逃すわけも無い。
そう思い、踵を返そうとすると廊下の奥の教室から何やら人の話し声がする。
可笑しい話ではないが、野生の勘の様なものなのだろうか、そこに行くべきだと身体が動き出す。
衝動のまま、息を潜めて扉から覗いてみると
数人の女子が机の上に座りながら楽しげに話している。
そこでふとデジャヴュを感じて、光景がぱっと頭に浮かび上がる。
諺は本当のようだ。古き先人は良い事を言う。
あれこそ佐伯の娘じゃないか。
こんな場所でやるのだ、人に聞かれたくない話の一つや二つはあがっているだろう。
しかしそんな事より、ファイルが最優先だ。
場所さえ把握していれば、万一自分を見つけられても強行突破で、ファイルを取って窓からでも飛び降りてやればいい。
「ねぇ、Aっていんじゃん？」
思わず息を飲む。
「いるいる。零さんがどーのって。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 106人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
