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今日はUNDEADのライブ当日。
会場には既に熱気に満ちていて、観客は彼らが出てくるのを今か今かと待ち侘びている。
集う人々の間には入っていくことはせずに、離れた所からステージを見る。
傍から見れば熱狂的ファンとは遠い、ただの通りすがりという感じだ。
無論、少女もそれが目的である。
次の瞬間、大勢の黄色い歓声が周囲に響き渡った。
それと同時に紫色の煌々とした人工的な光が灯され、先程とは比べ物にならない程に周囲は気を昂らせ、雰囲気は一変していた。
そして、彼の一声。
全身雷で打たれたような電撃が駆け巡る。
曲が流れ始めると、UNDEADメンバーが登場した。
ファンは一体感を持ち、コールを完璧に言いこなす。
少女はその群衆に混じって、歓声を上げ、彼らを間近で見る事はしなかった。
しかし、実感したのは零の実力の凄まじさだ。
離れている場所でも思わず人が足を止めてしまうような、空気作り。
良い意味でも悪い意味でも特徴的な個性ある口調と人格。惹き込まれる歌い方、視線の使い方。
当然の如く簡単そうに行っているが、繊細で或る意味職人技である。
多数の事を同時にやってのけ、それでいてファンの期待にも正確に、的確に応える。
全体的なパフォーマンスもこの上なく最高である。
零のステージは変わらず、美しいと少女は再認識した。
しかし反対に、ファンに対して羨望もあった。
確かに自分はファンに比べれば零と親しく、身近に接して来た。
けれども、零の事は何年共にしてきても掴めず理解出来ていない。
いや、理解をする段階にまで至らない。
理解をしようと考える、その議題すら明確に分からないのだから、彼の事を知らないと言った方が適切だろう。
それに比べれば、自分よりもファンの方が彼の事を知っているのかもしれない。
ライブが終わっても、瞳の奥にじりじりと焼き付く紫の光。
鼓膜に留まる曲の残響。
UNDEADメンバーの群衆を煽る声。
そして零の視線。
ファンは、喜色満面に散らばり始め、その場所に嘘のような静寂が戻った。
空になった会場。少女は漸くステージに近付いた。
愉しそうに歌う零を見て、思い返してふつふつと湧き上がる創作欲。
頭の中をぐるぐると巡る様々な感情や知識が一纏めに集結して点になり、それを線で結んでいく。
一つ一つが整理されていく爽快感、霧が晴れたような明瞭さ。
今なら、昔みたいに─
そう思った時には既に会場を後にして、あの場所へと走り始めていた。
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
