血ニ惹カレ、狂イ愛スル【浦島坂田船】

8.後に引けない ページ10

「分からない？」


「……はい」



明らかに怪しんだ声で返された言葉に、か細い糸のような声で返事をする。


当然だ。


こんなこと急に言われたって、きっと誰でも同じ反応をする。



「そ、の……思い、出せなくて」



積み重ねる嘘に罪悪感がないと言ったら、それも嘘になる。


けれど、生きて帰るためには……こうするしかないんだ。



「………」



黙り込み、私の目の前で立ち上がる人外の彼。


それを視線で追いかけて、追い縋るような目で彼を見つめる。


やがてこちらを向いたエメラルドの瞳と視線が絡み、私はビクッと肩を揺らした。



「本当に、思い出せないんだな？」



試すような、確かめるような。


そんな声色に、私はこくこくと無言で頷く。


長い息を吐いた彼は身を翻し、私に背を向けた。



「……また後で来る」



悩んでいるようだった。


困っているようだった。


微かに胸に差し込んでいた罪悪感が、さらに堆く募っていく。


やがて彼は、何も言わずに部屋を出ていってしまった。



(……まぁ、疑われる……よね)



ちゃんと言うことができた安堵からか、これからどうなるか分からない不安からか、私は肺に溜まっていた重い空気を勢いよく吐き出した。



言えた。


言えた、けれど。


まだまだ私にはしないといけないことがある。



ーーここに、少しの間滞在させて貰わないといけない。


滞在して、足が治ったらひとりで村に帰る。


「送る」と言われたなら、こっそり抜け出してしまおう。



でも、もし彼に「居てはダメだ」と一蹴されたらそれで終わり。


たとえ居ていいことになったとしても、バレてしまえばそこで殺される。



……もうこれから、私は後に引けない。

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