ー翡翠の苦慮ー ページ11
客室から出て、俺は真っ直ぐに自室へと戻る。
他の部屋よりも重く大きな扉を押して中に入ると、そこにはいつもの見慣れた「あいつ」がいた。
その姿を見据えて、俺は吐き出すように言う。
「お前なぁ……勝手にここに入るなっつってんだろ」
「はは、まぁええやないですか。俺らの仲やろ?」
鮮やかな金髪と、涼やかな切れ長の琥珀色の瞳。
にこりと笑った口元はどこか怪しげで、俺はその笑顔に呆れのため息をついた。
「で、何の用だよ」
「えー、用なんてないですよ。いつもみたいに気まぐれで遊びに来ただけですー」
相変わらず、こいつの考えていることはよく分からない。
「……まぁ、今日はこっちに来てから用できたけどねぇ」
「あ? なんだよ」
どこか意味深な含みを持った言葉に、少し低くなった声をぶつける。
返事を聞くよりも先に、俺は自分の執務用の机に向かう。
横を通り過ぎた俺の背中に、「客人」は告げた。
「……なんのつもりなん?」
ピタリと、俺の足は吸いつけられたかのようにその場に止まる。
「何が?」
返した言葉は酷く威圧的で、なんとも俺らしくない。
ーー背後の人物が、振り返った気配がした。
「……人間臭いですよ。この屋敷も、貴方も」
どこか嫌悪の浮かんだ、こいつにしては珍しい低い重低音。
それを背中に受けて、俺はふっと息を吐き出した。
「やっぱ、お前には分かるよな」
はは、と苦笑いを浮かべるけれど、目の前の人物はピリッと張りつめた表情で俺を見つめている。
「散歩の時に、血の匂いを感じて。辿って行ったら、ひとりの女がいた」
「……間違いなくその女の匂いやないですか、これ。なんで人間の血を引くような奴をここに連れてきたんですか」
忌々しげに顔を顰める客人。
「それが、な……」
この先は、言っていいのだろうか。
こいつに、このことは言うべきなのだろうか。
(………)
悩んだ結果、俺は言葉の続きを口にする。
「……その血の匂い、あいつの涙から……だったんだよ。それに、捻ってた足首の治りも異様に遅かった。……人外の血が流れているとは思えない」
「……は、? それ、って」
唇を震わせる客人の前で、俺は一息置いてから結論を述べる。
「あの女……多分純血の人間だ」
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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2019年12月11日 1時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
はる - 人外の作品大好きです!これからも更新無理のない程度で頑張ってください! (2019年8月11日 21時) (レス) id: 9386fcb447 (このIDを非表示/違反報告)
関西風しらすぅ@坂田家 - うわ…坂田さん可愛い…志麻さんどこいった…好きやわ…人外もんはいいゾ〜 (2019年7月6日 17時) (レス) id: f34e486c2f (このIDを非表示/違反報告)
風空 - 吸血鬼もの大好きです!また毎日の楽しみが増えました(*´ω`*)更新楽しみに待ってます!自分のペースで頑張ってください! (2019年5月27日 22時) (レス) id: 7d8b5dcb68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:甘夏れもん | 作成日時:2019年5月26日 20時