第115話 ページ38
瀬名｢A｣
貴｢…｣
まるで抜け殻のように、空っぽになった気がした。視界がグルグルと回っている。気持ち悪い。
フラフラして、あたしは瀬名の腕の中で意識を落とした。
力がなくなり自分で立てなくなる。最後に残った記憶は、瀬名があたしを抱き抱えてどこかに寝せたこと。
頬を撫でて、Aって呼んでくれたこと。
その後は、何も覚えていない。
瀬名｢寝ちゃった…のかな｣
OX｢そんな所だろうな｣
OXが撫でた指先。目の下にはひどいクマ。顔色は悪く、ほとんど白い。
OX｢寝てねぇんだろうな｣
瀬名｢…お兄さん。事故にあったって｣
OX｢聞いたのか｣
瀬名｢うん｣
OXはからっていたリュックを床に下ろした。ソファに寝ているあたしの横に腰掛ける。そして、前髪を指に絡めながら額を撫でる。
OX｢まぁ、安心しろよ。この記憶は多分、消えるから｣
瀬名｢消えるってどういうこと？｣
OX｢昔もこんなことがあったんだよ。ミウラが死ぬ前だ｣
瀬名｢その子が死んだ後はどうなったわけ？｣
OXは瀬名を睨んだ。燃え上がる炎がさらに勢いを増やした。
瀬名は恐れることなくOXを見据える。数分間、空間に火花が散る。OXは盛大に息を吐き口を開いた。
OX｢…同じように、自分で自分を傷つけようとした。あん時は確か、こいつの家だった｣
ミウラが飛び降りたその夜、あたしは一人真相を知っていた。
どうして死んだのか、どうして飛び降りたのか、あの子の周りで起きていたこと。気づけなかった後悔。
全ての感情が押し出された。
OX｢物を投げて、引き裂けるものは全部破いた。あいつの家の中めちゃくちゃになったよ。あん時、家にはうちと、守…そんで兄貴の康人さんがいた｣
OXは守を助けるのに精一杯。その時、兄は怪我することも恐れずあたしを助けに抱きしめてくれた。
OX｢物が頭に当たっても、Aがどんなに暴れても康人さんはAを離さなかった。優しい笑顔で、抱きしめて名前を呼んだんだ｣
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作者名：�� | 作成日時：2017年7月25日 10時
