第43話 ページ6
貴｢へっ？｣
額を抑えて間抜けな声を出して目を開けた。
意地悪そうに舌をぺろっと出して中指と親指の指先を合わせた手を顔の横に構えている。
瀬名｢いつものお返し。やられっぱなしも癪だしね？｣
貴｢〜〜〜〜！？んのぉ、ばかぁ！｣
瀬名の肩を叩いてスタスタと先を歩いていく。片頬に手を当てて、赤くなってあるだろう自分の顔を必死に冷やした。
瀬名｢なにぃ？変なこと想像してたわけぇ？｣
楽しそうな声音は、ニヤニヤした表情を連想させる。まともに顔を見れなくて、んなわけないでしょ！と半ば強がって答えた。
瀬名｢じゃあ、なんでこっち見ないの？｣
貴｢う、うるさいなぁ。どこ見ても、あたしの勝手でしょ！｣
瀬名｢まぁいいけどねぇ？あんたの、照れた顔はちゃんと見れたしぃ｣
貴｢照れてないし！｣
瀬名｢はいはい。そういえば、あの子は元気？｣
貴｢あの子？｣
瀬名｢確か、えーっと…ミウラ？だっけ？｣
歩く足がピタリと止まる。
あたしのスピードに合わせて歩いていた瀬名も、あたしを少し追い抜いたところで歩を止めた。
貴｢ど、どこで、その名前聞いたの…？｣
最高まで昇った温度は、冷水を浴びたように急激に冷えた。寒い…とは違う、でもバッグを持つ手が震える。
瀬名｢どこって…あんたの家の犬の名前でしょ？｣
貴｢犬…？あれは、
瀬名｢え？でも、あんたのお兄さんはそう言ってたけどぉ…？｣
息を吸って吐くのは、こんなにも難しいことだっただろうか。
今は心がズキズキと痛くて、さっきのフワフワした気持ちはきっと台風とか、強風に巻き込まれて飛んでいってしまったんだ。きっと。
ここでいい。後は大丈夫だから。たった2文を早口で言い、
貴｢じゃ、また明日｣
お決まりの言葉を残してあたしは逃げるようにその場を後にした。
瀬名｢…気をつけなさいよねぇ！｣
何も聞かず、ただ走り去るあたしを心配してくれた言葉を叫んだ瀬名を、振り返ることは無かった。
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作者名：�� | 作成日時：2017年7月9日 0時
