【ワールドトリガー】探偵社の銀髪さん。【文豪ストレイドッグス】

第三十二話 其の正体は＿＿ ＊挿絵有り ページ33

爆発の有ったビル近辺に人が集まっている。


所詮野次馬と云う物だろうか。


「・・・・・」


流れ出る汗をハンカチで拭いながら城戸はハァハァと荒く呼吸をする。

まだ辺りは煙臭く、息をする度に喉が激しく傷んだ。


「なぁ此の爆発 亦(また)ポートマフィアの仕業らしいぞ」


沢山いる観衆の中の１人が云う。

其の方向に視線を向けた。


「今月で何度目だよ

矢ッ張り口封じか何かか？」

「否 噂によると"例の奴"の仕業らしいぞ」


例の奴＿＿＿＿＿。

周りの騒がしい音の中から彼らの言葉だけを拾う。


「ポートマフィアの・・・暗殺者 だったか？

"石川"だとか云う」

「俺先刻(さっき)見たけど・・・

ありゃ 腕迄ズタボロだったよ」


「おっかねぇな」男二人は顔を見合わせうんうんと頷く。

城戸は只、其の言葉を聞いて黒煙のもうもうと昇るビルを見ていた。


そんな城戸の肩に何かが当たる。


「すみません」


如何やら女性の日傘が当たったらしい。


「お怪我は・・・・・？」


鈴のような優しげな声。

花のような儚い笑み。


とても美しい女性だった。



白いレースのあしらわれた日傘。


今にも透けてしまいそうな生地を何枚も重ねて作られ、風に揺れる膝丈の白いワンピース、


足元を飾るオレンジ色のサンダル。


黒色の髪の毛が白い服と肌、そして夕陽色の美しい瞳に善く栄えていた。


薄くグロスの引かれた唇が言葉を紡ぐ。


「あの お怪我は・・・・・？」


其の言葉にハッとし、城戸は静かに口を開いた。


「済まない

此方は怪我一つ無い」


城戸の言葉に安堵したのか、目の前の彼女は「そうですか」と云ってにこりと笑う。


「では失礼いたします」


ぺこりと頭を下げ彼女は城戸の横を通り過ぎて行った。


金木犀の香りがふわりと漂う。


彼女の背を追うようにして向けていた視線を元のビルに戻す。


城戸にとって、彼女の存在は只の"通行人"だった。



ふわりと漂った金木犀の香りの中に混じるようにして漂っていた微かな血と火薬の臭い。

そして彼女の黒髪に付いていた真っ赤な血。


城戸は其の凡てに気が付いていなかった。


「真逆・・・気付かれないなんて」


小さく呟かれた彼女の言葉は静かに消える。


振動と共に鳴る携帯に、彼女は目を細めた。


ワンピースの衣囊(ポケット)に仕舞っていた携帯を取り出す。


「ご苦労様 私の処に帰っておいで


ねぇ "石川君"」


「はい 首領(ボス)」


儚い女性の其れは消え、顔に張り付いたのは冷たい笑みだった。

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