ウォッカ・ギブソン『谷崎 潤一郎』 ページ47
涙の味は、塩辛いと聞いた事がある。だが、私は其れを実感した事は無い。
「はぁ……情けない」
「仕方が無いよ。ボクはAさんの異能力、綺麗で好きだよ?」
横にいる軟派なヘタレは困った様に笑って告げる。持っているグラスは、私と違ってソフトドリンク。未成年だから仕方が無いのだけれど。
「君、妹ちゃんと同じ事言ってるよ、谷崎君」
「えッ!?……ナオミには内緒にしてね……」
私の指摘で初めて気付いた様に肩を跳ねさせる谷崎君。全く、内緒だなんてヘタレだな……そう思いながら、私は手元のウォッカギブソンを一口。グラリと酔いが回った。
「喜ぶと思うんだけどね」
一つ溜息。誤魔化すように、目を泳がせる谷崎君。
「そ、そんな事より!ほら……Aさんの好きな人は?上手く行ッてる?」
「フラれた」
速攻で答えてやると、目を丸くしながら、しどろもどろ。あたふたと慌てる姿が年齢相応で可愛らしい。あ、男に可愛いは失礼だったか。
「あ、そ、そッか……残念だッたね……」
「ま、満足するまで泣いたし、又イイ男探すよ」
グラスを手放す。身体をうんと伸ばす私の周りには、数多の宝石が散らばっていた。ダイヤ、サフャイヤ、エメラルド……その他諸々。店員が箒とちりとりで掃除をしていた。
「マスター、お勘定はそれで良い?」
「払い過ぎですよ。特別メニューも作れる位です」
「んー、そうかな……」
グラスをもう一度手に持つ。私は自分の異能で宝石が作れる(と言うより出来てしまうのが正しい)ので、価値がイマイチわからない。
乱歩さん曰く、「探偵社員で良かったね」との事。
横では谷崎君が苦笑している。
「それにしても……よく泣いたよね、今回」
「ま、今回は長い事好きだったから。騙されてただけだけど」
散々泣かされ、散々にいたぶられた事が蘇る。其れでも愛だと思い込んでいた自分が、本当に情けない。天を仰ぎ達観していたら、上から掌が降ってきた。
「どしたー?」
「……あのさ……」
数秒の沈黙。
軈て、溜息のような笑い声が聞こえて、視界に光が戻る。彼に視線をやると、下を見て苦笑していた。
「何よー?」
「……矢ッ張り、何でもない」
諦めた様子で、そんな台詞を吐きながら笑う谷崎君。言いたかった内容がわからない程には、子供じゃなかった私。
「そっか」
其れでも、優しさに付け込みたくなくて、一言で逃げた。狡い大人になったものだ、と苦笑する。そんな夜を噛み締めた。
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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時