『文豪ストレイドッグス』飲んで呑まれて愛を引く<短編集>

テキーラサンライズ『マーク･トウェイン』※ゆらさんリクエスト ページ48

青年は今日もBARに走る。

カラン、とベルが鳴った。店内には静かなジャズが流れ、雰囲気を作る。

「Hey！！また来たよA！」

そんな雰囲気をぶち壊すが如き叫び声が店内に響く。店には若いバーテンダーの女が目を丸くし、グラスを拭く手を止める。

「……毎回、アンタの登場の仕方は心臓に悪いんだよ……」

溜息一つ。青年の近くに漂う筈の小人達は、いつの間に、女の横で青年を見て首を振った。そんな事など気にもせず、青年は女の真正面を陣取る。

「Aが綺麗なレディだから、驚く顔が見たいのさ！surprise！」
「あー、ハイハイ。飲み物は？」
「テキーラサンライズ！」

青年は、女目当てでBARに足を運んでいた。密かでも何でもなく、堂々と恋をしていたのだ。そして、酒の種類など、西洋劇で見た『テキーラサンライズ』しか知らなかった。
小人達が酒を作る女の横で手元を見詰めながら喋る。

「ゴメンな、A」
「アイツ、悪気は無いんだよ。お前が好きなだけで」
「其れ、本人に許可取らずに言っていいの？」

「まあ、知ってるけど」等と繋げながら、女は青年の前のカウンターにグラスを置く。青年は、何時も頼む酒を煽りながら女に話を聞かせる。女は適当な相槌を打ちながら道具を洗っている。

「それで、タイガーボーイは凄かった！ハックとトムでも倒れずに諦めないのさ！」
「ハイハイ」
「適当に聞かないでくれよ！ワクワクするだろ？」

女は洗った道具を布巾で拭きあげ、棚に戻す。其れでも優しい笑顔を向ける姿は、姉か母親かの家族愛によく似ている。

「わかったわかった。其れで、どうなったの？」
「ああ、そうだ、続きだ！」

青年は冒険劇を熱く語ってみせる。二人の小人達は青年の後ろで苦笑い。女は青年が話に夢中な間に、二人に向けてウインク。「気にしないで」というメッセージである。

「どうだい！？僕はこんなにも勇敢なんだ！僕は君をお姫様にも出来るよ！」
「ハイハイ。私はオヒメサマに興味は無いかな」

女が肩を竦める。青年は目を丸くして呆気に取られた。ピンと来ていないらしい。彼女が寄りかかったテーブルから手を離し、シェイカーを手に取り、視線を注ぐ。

「君が聞かせてくれる話を、こうして聴きながら酒を作る。私は、キャラクターではなく観客になりたい」

女はシェイカーから目を青年に移す。青年は満面の笑顔を浮かべていた。冒険話の終わりはない。ワクワクする冒険を肴に、カウボーイの様に飲み干そう。

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