潜む怨霊/1 ページ7
「あれ、薫先輩だけですか？」
「なぁに、俺じゃ不満？」
「奏汰先輩います？」
恐らく口説き文句だろう台詞を受け流して、海洋生物部の部室を見回す。
金魚の件からかれこれ数週間。もうすっかり夏の日差し。
「奏汰くんならもう少しで来ると思うよ」
「じゃあ待ってます」
「うんうん、ついでに俺とお話ししよ〜♪」
金魚事件から時折この部室に来るようになった私は、この先輩ともよく鉢合わせするようになった。
初対面で綺麗に決まった右ストレートは暫く忘れないだろう。
「今日も仕事？」
「はい。」
「大変だね、手伝おうか？」
「いえ、結構です。」
このやり取り、昨日もした気がする……。
冷やかな視線を送っても、慣れているのかずっとニコニコ笑っていた。
「ところで純粋な疑問なんだけどさ。……その鞄、なにか入ってるの？」
「……」
視線を追うと、私の肩に提げている通学鞄。
私のものは、やたらと膨れていた。
「あ、別に強制ってわけじゃないよ？」
「いえ、別に……。そうですね、余計なものです。」
そんなとき、勢いよく扉が開いた。
「深海！深海はいるか！？」
「うわびっくりした〜……あれれ、蓮巳くんじゃん。どうしたの？」
「羽風。少し深海に野暮用があってな。……む、転校生？」
「あっ、どうもー」
へこへことわざとらしく礼をしてみれば、彼の眉間に少し皺がよる。
「……まぁいい。羽風、深海が来たら生徒会室に来るようにと伝えろ」
「え〜面倒くさ〜い……うん、ごめんごめん、うそうそ。ちゃんと伝えるよ〜」
適当に受け流すのを見届けて、私はまたぼうっと水槽を眺める。
どこかで見たことのある魚もいれば、不思議な形の魚もいる。
「これが、『すとーんふいっしゅ』ですよ〜」
「え、う、うわぁ！？」
「ふふ、驚かせちゃいました？」
気がつけば、真後ろに奏汰先輩がいた。
気配も何もなく、まるでそこの空気から出てきたような、そんな感覚。
「奏汰くん、生徒会室、呼び出されてたよ」
「えぇ、『おせっきょう』はいやです〜」
「あ、ついでなんでこれ。次の事件ですよ」
私が持っていたプリントには、『地下書庫の怨霊』と小さく綴られ、詳しくもなんともない詳細がつらつら並べられている。
奏汰先輩は、それを読むや否や、少し顔を緩めた。
「これは、『かんたん』ですよ♪」
「……えっと？」
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作者名：竜花 | 作成日時：2019年5月26日 12時
