Hope ページ13
「一年前、覚えてますか?」
空を見上げたまま、彼女は突如口を開く。一年前の葛藤はもう、忘れることなんてないだろう。
「私、あの子とほとんど関わりはないけど……話は全部聞いています」
「そっか……」
「アイドルって大変ですよね。それに、大学だって。それと、あの子のことも。」
「……あぁ。」
彼女に、心を見透かされている気がした。案外気のせいでもないのかもしれないくらいに、彼女の言葉は一つ一つおれに重く刺さる。
泣きたくなるような気持ちだった。Aが特別だからってものじゃない。たとえ特別な存在じゃなくても、おれは今頃こうして悩んでいるだろう。
それだけ、大事な存在であり、悩みの種でもあるのだから。
「そこで!」
ふと、あんずは声をあらあげる。何かと思えば、今度はある方向に向かって歩きだした。
「おい?」
「先輩、私思ったんです。行きましょう!」
「え、ちょっと……どこいくんらよ〜!?」
*
なんだか、胸騒ぎがした。それをいち早く勘づいた『そら』はまるで赤子をあやすように、私を撫でる。
「終わらせたりしないって……言うてもどうするつもりやの?勿論できることならおれも協力するんやけど……」
「う〜ん……じゃあ、あなたや宙たちはなんだと思いますか?」
「えっ?うーんと、人間?」
「そうじゃなくて!もっと、こう、あるじゃないですか?」
うーん、と考える『みか』。いつの間にか、カウンターから聞こえてくる声は静かなものになっていたわ。
そっとそこを盗み見れば、こちらをまるで保護者のように暖かい目で見ている『りんね』たちと目が合ったような気がした。
「……せや、ここにぎょうさんおるもんな。おれも、きみも。お師さんやなずな兄ィも。キラキラしたアイドルが!」
「そうです!アイドルなら歌いましょう、みんなに、Aに笑顔を届けましょう!」
満面の笑みで立ち上がった『そら』。曇りのない瞳はしっかり『みか』を見据えていて、右手を差し出した。
『みか』はそれを手に取り、照れくさそうに笑みを浮かべる。
「あの〜……盛り上がってるとこ悪いっすけど、ご注文の品っす〜」
「あ、おおきに」
みんな、なんだか楽しそう。
そう思った矢先、窓の向こうで見覚えのある背中を見たような気がした。
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作者名:竜花 | 作成日時:2020年7月8日 23時