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8枚目 前を向け ページ10

「どうゾ」

「気遣いは無用だと言ったのだが……まぁ、ありがとう」

 部屋にいたのは、ホッケーマスクくんこと氷鷹北斗。彼に合わせてしばらく使っていなかった湯呑みを置いてみたところ、案外好評だったようで。

「デ、何?わざわざ知る人ぞ知る道を使ってここにひょっこり出てきたってことハ、それなりの用事があるんでしょウ?」

「……随分やさぐれたな」

「別に君には関係ないでショ」

 今にも注ぎそうだったティーポットの白湯が、綺麗にティーカップを外れる。

 こんなに動揺するなんて自分でも思ってもみなかった。


「うちの部長に頼まれた」

「ハ?」

「お前の様子をみてきてほしいと」


 呑気に茶を啜る彼になんだか無性に腹が立つ。

 ボクより彼の最後(最期)の瞬間を近くで見たというのに、何も思わないのか、この人は。

「もうボク達の全盛期は終わったんだヨ、これからはあの忌まわしきfineの独壇場ダ」

 皮肉を込めてそう言ってみれば、意外にも彼は反応する。

「あぁ。もう終わりだ、こんな時代」

 
 軽く吐き捨てるようにそういう彼の表情は見えない。

「こんな時代……ネ。」





「……すまない。長居をしすぎたうえ話しすぎた」

「ウン。ウザったいほどに愚痴をこぼされタ」


 彼の話を聞いていくうち、段々と心は和らいでいった。

 彼の手に握りしめられている空になった湯呑みを取り上げ、笑ってみせる。


「逆先」

「渉兄さんがキミにボクを任せた理由が分かった気がするヨ。」

「正直俺はよく分からんのだが」

「……そういうところだよネ。思い詰めすぎていたボクにハ、キミのようなお気楽な人が丁度よかったのかナ」


 なんの前触れもなく、ボクは彼に向かって例のフィルムカメラのシャッターをきった。

 驚く彼にボクはにぃ、と意地悪く笑う。


「フフ、ピントも何も合わせてないからブレているだろうけどネ。」

「は……?」

「別にむやみやたらに見せびらかしたりしないから安心しなヨ。」


 脳がついていかない彼をぐいぐいと扉の外に押しやった。


「ついでにそこにいるセンパイ救出しておいてネ。」


 別に、恨みが消えたわけではないけれども。

 少し心が軽くなった気がした。

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作者名:竜花 | 作成日時:2019年8月15日 2時

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