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「…ふぅ。そろそろ話してやらんこともないな」


「なんだい、その上から目線は。あれほど焦らしていたくせに」




彼は鋭い目線を送ったのだが、本人はなんともないような顔でけろりとお茶をすすっている。




「…さて」




またもや身を乗り出して真剣な表情で男に耳にささやいた。




「…隣町にはたいそう美しい踊り子がいて、朧月の日に行けば、いつもよりも美しい踊りを踊ってくれるそうだよ。しかし、見つけるのが大変だそうな」



驚いた、というよりもあほの子がするような顔で「へ?」とつぶやく。


男はにやりと笑って、小銭を乱暴に叩きつけ袋を持って走り去った。



「っしまった!」




彼は、たいそう悔しそうな顔で今まで忘れていた、あの有名な男の顔を脳内で強く殴り飛ばした。


しかし、それでもけらけらと可笑しそうにこっちを指差して笑うあの男が浮かび、今までは自慢であった想像力を恨んだ。


男が話していたあの話しはとても有名な話で、誰もがしっている話である。


そして、あの男の異名は噂好きの金取り野郎。


皆が知っている、詐欺師であったのだ。


あの男は、女よりも頭が回らない男を狙い、あまり知られていない噂話と持ち掛け、金を奪い取る。


そしてそのあとに誰もが知っている有名な話をするから気を付けろと囁かれている。


ああ、今更金を奪い返そうと追いかけてももう遅い。


もうとっくに猫のように素早い足で遠くに行き優雅に歩きながら馬鹿な男だと嘲笑しているだろう。




「はぁ……」




今日は厄日だと、彼がつぶやいた。

#1→←#序文



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作成日時:2020年3月31日 22時

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